Z世代の想いをアニメCM化。アニメーションスタジオ「シャフト」とJ:COMの制作秘話
「J:COM×U25 環境を考えるプロジェクト」の裏側(後編)
JCOM株式会社は、25歳までのいわゆる“Z世代”と一緒に地球環境へのメッセージやアクションについて一緒に考え、Z世代の皆さまの自由な発想による「140字のストーリー」をアニメCM化して社会に発信する「J:COM×U25 環境を考えるプロジェクト」に取り組んでいます。第一弾としてアニメCMを2023年7月3日に公開しました。
今回は、プロジェクト担当者の藤野のぞみが実際にアニメーションを制作された株式会社シャフトを訪問し、アニメーションプロデューサーの鈴木隆介様と監督の志村亮様にお話をお聞きしました。140字のストーリー作品がCMとして完成するまで、普段なかなか見ることができないアニメーションの制作過程や、こだわったポイント、大変だったことなど制作の裏側をご紹介します。
立ち上げから実施までのプロジェクトの裏側(前編)はこちら
(左からJCOM株式会社 藤野のぞみ、株式会社シャフト 鈴木隆介様、志村亮様)
【プロフィール】鈴木 隆介(すずき りゅうすけ)
株式会社シャフト 制作部 プロデューサー
2010年に入社。制作進行としてキャリアを積み、現在はプロデューサーとして業務に当たっている。担当した作品にCM「HUNGRY DAYS ワンピース」やMV「大正浪漫」(YOASOBI)など。
【プロフィール】志村 亮(しむら りょう)
株式会社シャフト 作画部
2019年に入社。動画経験を経て現在は原画マンとして活躍中。
担当した作品に「魔法少女 マギアレコード まどか☆マギカ外伝」「RWBY 氷雪帝国」など。
―J:COMから本プロジェクトの相談があった時の第一印象を聞かせて下さい。
鈴木さん
若い世代のメッセージをアニメCM化するプロジェクトという点は魅力的で、シャフトも若手だけでチャレンジする良い機会になると思いました。また、普段制作しているアニメはエンタメ要素が強いものがほとんどなので、環境問題というメッセージ性の高いテーマにアニメでどうアプローチするか、チャレンジしてみたいと思いました。
―今回はU25向けのプロジェクトということで、若手の方に制作いただきました。監督の志村さんはどのように選出いただきましたか。
鈴木さん
志村は社内の若手の中でも「自分」を積極的に発信していて、さらに大学時代に個人でアニメ制作の経験もあったので、そうした点も踏まえて抜擢しました。今回、他の制作スタッフも20代が担当しました。
志村さん
任せてもらえるプロジェクトを求めていたので、鈴木から若手中心のプロジェクトがあると聞いて、ぜひやりたいと返事しました。大学時代の経験については、最初は漫画などを描いていましたが、もともと映画が好きだったので、実写の映像も撮るようになりました。しばらくして、漫画と映像どちらもできるアニメに手を出してみたら一番向いているなと思うようになり、大学3年以降はアニメを中心に独学で勉強したこともあって、「シャフト」に入社しました。
―このプロジェクトに参加してみてどうでしたか。
志村さん
SDGsに関しては、今回のプロジェクトに関わるまで一切知らなかったのですが、制作しながら調べるうちに、かなり重大な問題ということがはっきり分かってきました。自分は動植物が昔から好きだったので、動物たちが苦しんでいる画像や映像を見て、SDGsを真面目に考えないといけないと感じました。私生活でも、ゴミの無分別など環境に悪いことに目が向くようになりました。そういった点でも参加して良かったなと思います。
鈴木さん
私は最終審査会にも参加しましたが、環境関連の作品を制作するにあたって、第一線の専門家の方のお話を聞けたことが一番良かったと思います。審査員の江守教授(東京大学)もおっしゃっていましたが、環境問題は地球規模という大きな視点の問題なので、普段から身近なこととして捉えるのは難しいですが、以前よりも積極的に意識をもたないといけないと感じるきっかけになりました。
―140字のストーリー作品がアニメになるまでの全体の流れを教えてください。
鈴木さん
原作シナリオから絵コンテを作成し、作画(レイアウト・原画・動画)、仕上げ(彩色)、背景・CGをセクション毎に作成し、最終的に撮影で合成するという流れになっています。
アニメーションは1つの場面に対し大きく分けて、主に3つの要素から成り立っています。
1つ目は作画素材。キャラクターがメインになりますが、絵が動くアニメーションで一番の根幹をなす部分です。
2つ目は背景素材。背景がないと、ビジュアルとしてはかなり弱くなります。どんな場所でも背景は存在します。
3つ目はCG(3D)素材。かなり一般的になってきていますが、カットによっては入ってない場合もあります。
―それでは、各々の工程を詳しく教えてください。
●演出セクション
<絵コンテ>
鈴木さん
大体の映像作品がそうですが、まずは“絵コンテ”というカット毎のビジュアルのプランを作成します。原作シナリオをもとに、登場人物のセリフや動きなどからシーンをカットに分割し、各カットを絵と文字で表します。
志村さん
まず原作を見て、ぱっと思いついたものや自分の中で出てきた映像を、一旦絵にしました。それだけだと物足りなかったり、触れ幅が狭かったりするので、色々環境問題について調べてアイデアを探ったり、周りの人から意見をもらったりして自分にない引き出しを増やすイメージで作成しました。
●作画セクション
<レイアウト>
鈴木さん
アニメーションの制作工程は細分化されていて、各工程のプロフェッショナルが素材ごとに分かれて作業を進行します。まずは、各工程・作業をどのように制作するべきかを明確化するために、アニメーターが指示書となる“レイアウト”を作成し、これを基に各セクションが制作を進めます。
<原画>
鈴木さん
作画の制作においてはまず、レイアウトやコンテを参考にキャラクターの演技を考え、動きの要所となる絵を描きます。まず雰囲気や方向性を確認するために、ラフ原画を制作し、チェック・修正し、OKが出れば清書した“原画”を制作します。ラフ原画や原画に、演出・作画監督・総作画監督などのチェックが入ることで、作品の世界観を統一します。
<動画>
鈴木さん
次の動画の工程では、原画と原画の間に動きを作るための絵(中割り)を描き加えて流れを完成させます。次の仕上げ作業のために原画をクリンナップし、さらに色の塗分けをするための線を描き、彩色が可能な状態にします。
●仕上げセクション
<色指定>
鈴木さん
作画セクションと並行して、作品に登場するキャラクターなどの色指定も行います。昼と夜などの時間帯や、日向と日蔭での色合いの違い等も設定します。
<仕上げ>
鈴木さん
仕上げの工程では色指定されたカラーでペイントを行い、最終的な仕上げの作業を行います。
原画の作成から仕上げまで全ての工程に、それぞれチェックが入るので12工程前後の作業になります。
●美術セクション
<背景>
鈴木さん
レイアウトを参考に各カットの背景を制作します。画面の大部分を占める背景は、天候や空気感、季節も表現し、作品の色味を決める重要な素材です。同じ場所であっても例えば普段でも朝と夜では全く違う景色に感じるように、場面によって色味を変えて制作します。
●CG(3D)セクション
鈴木さん
今回の作品においては、あまり3Dを使っていませんが、一部背景で3Dを使用しています。昨今の作品で皆さんがよく思い浮かべるとしたら、車などの乗り物で使われることが多いです。
●撮影セクション
鈴木さん
各セクションから上がってきた素材を合成し、一つにまとめ上げて映像にします。他にもエフェクトやカメラワーク付けもここで行います。アニメーションにする世界は3次元であり、そこには重力や熱があるので、実写と同じようにカメラ越しに被写体を撮るイメージで遠近感や雰囲気を作ります。
志村さん
特に、動物が紙飛行機を見つめているカットでは、より実写に近づけるため「ぼかし」処理を施しました。
今回の映像制作に携わったスタッフ数は約15名、制作したセル画は77枚、背景は9枚になりました。総制作時間は120時間ほどになります。
―140字のストーリー作品から、アニメCMに仕上げるにあたり難しかったポイントはなんですか。
志村さん
紙飛行機に乗るところから、最後に少年が想いを固めるまでの展開があるので、それを15秒の尺に収めることが一番大変でした。いろいろなアイデアが出てきても、尺が足りないとなって削ったり出したりを繰り返して今の形になりました。
ただ、15秒しかないからといって縮こまるぐらいなら、自由に書いてもらえた方が面白いので、そこは一般公募から選ばれた原作の魅力だと思います。ノウハウを持っているプロだと、大体このくらいが限界と予想しながら、もっと表現したいものがあったとしても削ってしまうと思うので。
―アニメCMを制作する上でこだわったポイントを教えてください。
志村さん
オランウータンが画面にドーンと出てくるのはあまり絵におこしているのを見たことがなかったので、森林伐採のカットでのオランウータンは絶対に外せなかったです。インドネシアの動画で、森林を伐採している機械に、「森の賢者」と呼ばれるオランウータンが立ち向かっている動画があって、それが印象的だったので採用しました。動物を描くのが好きで、作品に取り入れてみたかったというのもあります。
―原作者の想いはどのようにアニメに反映しましたか。
志村さん
まずは、主人公の少年が想いを変えるというところはしっかり表現したいと思いました。原作者との対話の中で感銘を受けたのが、「動物たちが苦しんでいる描写、環境破壊の描写を、あまりオブラートに包んだり、軽く表現したりしてほしくない。むしろ、ちょっとショッキングなくらいの方がいい」とおっしゃった点です。自分もそこを表現したかったので、強く共感しました。
―原作には、動植物だけでなく人間も苦しんでいる描写が含まれており、最終審査会でこの点が評価されました。今回どのように反映しましたか。
志村さん
全てのシーンが頭上からの視点ということで統一したかったので、それを人間に置き換えて考えました。都市型水害にあっている人の描写を入れることで、「視聴者自身にも将来影響がある」という表現にできると思い、今回の形になりました。
―原作には「人」としか書かれていませんでしたが、本人にすることで、自分ごと化のメッセージも伝えられていると感じました。
志村さん
そうですね。主人公とは別の人間が新たに登場すると、印象が散らかってしまいます。そこで、「あり得るかもしれない主人公の未来」を描きました。「人」と言われて、人を写すのか、人の象徴であればいいのか。自分の中の映像を作る時に、内容をどれだけ分解できるかが演出のポイントだと思います。
例えば、紙飛行機も、主人公の視点の象徴として見ている方には、存在自体が人間側のエゴの象徴みたいなものが伝わると思うので、そういったところまで噛み砕いて描くことが演出だと思っています。
―今回のアニメCMを、どんな方に見ていただきたいですか。また、どんなことを伝えたいですか。
志村さん
いろんな年齢層の人に見てもらいたいですけど、これから大人になっていく人たちに届いてほしいな、という想いで作りました。特に、動物たちや最後の主人公の視線を感じて、ネガティブな印象じゃなくて、何か訴えかけているというのに気づいてほしいというところが、自分としては一番伝わってほしいです。
あえて表情を持たせたりはしていないので、動物たちの感情やどう思っているかは見た人によって変わると思います。訴えているようにも見えるし、なんとも思ってないようにも見えるし。そこが動物の悲しいところでもあり、響いてほしいところですね。
鈴木さん
いろんな方に見ていただきたいなと思いますが、原作者はじめ応募者がU25ということで、スタッフも若手中心にしていますので、中でも同世代に一番届いてほしいと思います。そこで受ける印象というのはそれぞれだと思うのですが、SDGsに対して、実際に自分が何かをやる、やらないとか、そこまでではなくてもいいので、単純に、環境問題に人間が向き合っていかなきゃいけない、という雰囲気がより世間に広がり伝わっていくといいのかなと思います。
シャフト様と制作したアニメCMは、J:COMのグループチャンネルで放送するほか、YouTube・Twitterで公開しています。登場する動物や主人公の表情や視線にも注目してぜひご覧ください。
このアニメCMをご覧になられた方が、地球環境について改めて考えていただき、身近なことから社会の仕組みまでを見つめ直し、具体的なアクションをおこしていただく第一歩となることを願っています。
◆アニメCM公開先
・J:COMのグループチャンネル
・YouTube
◆「J:COM×U25環境を考えるプロジェクト」概要
未来を担うU25世代の皆さまと一緒に、地球環境へのメッセージやアクションについて考え、環境専門家や映画・アニメ等のメディア事業を行うアスミック・エースなどのJ:COMグループ会社と協力してアニメーションCMを制作、社会へ発信します。
https://www.jcom.co.jp/corporate/sustainability/environment/contest/
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