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人の数だけ、物語がある

「ジェラートは科学」。京大院卒の甘納豆屋4代目が本場イタリアの配合理論で作る"種"のジェラート「SHUKA gelato」の開発ストーリー

著者: 有限会社斗六屋

1926年創業の京都の⽢納⾖専⾨店、有限会社⽃六屋(所在地:京都府京都市、代表/4代⽬:近藤健史)は、2022年10⽉に⽴ち上げた種の菓⼦ブランド「SHUKA」より、"種"のジェラート「SHUKA gelato」を販売します。構想から5年を経て誕⽣した本製品は、⽜乳の代わりに"種"を⽤いた新しい植物性のジェラートです。



「世界中の⼈に⽢納⾖を⾷べてもらいたい」と、2018年にイタリアを訪れた時に抱いた想いから5年、2022年に古くて新しい種の菓⼦ブランド「SHUKA」を⽴ち上げました。今回は世界中で愛される菓⼦であるジェラート(アイスクリーム)を"種"で作ることに挑戦しました。本ストーリーでは、⽃六屋4代⽬であり、京都⼤学⼤学院で脂肪の研究をしていた、職⼈として異⾊の経歴を持つ近藤健史が、「SHUKA gelato」の開発の裏側をご紹介します。


京都の祇園・南座前にて、当時最新の和菓子だった「甘納豆」専門店として創業した斗六屋


斗六屋の始まりは1926年。私の曽祖母である初代近藤スエノが41歳の時、京都の祇園・南座前にて甘納豆専門店「斗六」を創業しました。甘納豆の製造・小売および甘味処も併設していました。政府関係者、南座出演の役者様、観光客にご愛好頂いていました。


江戸時代に大福や羊羹など色んな和菓子が誕生したのですが、甘納豆ができたのは明治の少し前。つまり、当時はまだ新しい和菓子でした。きっと曽祖母は、新しいことにチャレンジすることを厭わないタイプの人だったんじゃないかなと思います。戦争で南座の店舗は閉店となりますが、私の祖父、その後は、叔父が家業を継ぎ、斗六屋を守ってきました。


創業当時の版画の引き札(現在のショップカードに相当)

触れたくない存在だった「甘納豆」、期間限定のアルバイトをきっかけに家業を継ぐことを決意


私は、小さな頃から家業が何であるかは知ってはいましたが、特に意識をすることはなかったです。しかし、中学の時に同級生から『甘い納豆なんて気持ちわるい』とからかわれ、触れたくない存在になってしまいました。転機が訪れたのが、大学院生のときです。

小さい頃から生き物が好きだったこともあり、生物の分野で研究に打ち込み、その経験を活かせる仕事に就くつもりでした。


ある時、就職先を考えたときに、ふと家業のことを思い出したんです。でも継ぐなんて気持ちは毛頭なく、家業に関わることも社会経験の一つになるだろうなという、軽い気持ちで、期間限定のアルバイトとして、斗六屋で働くことすることにしました。


地元・壬生寺の節分祭りで、売り子として甘納豆を販売することになります。店頭に立って驚いたのは、なんと3日間のうちに3000人もの人が買いにくる盛況ぶりだったこと。50年ほど毎年出店し続けていたため、「節分祭りといえば甘納豆」という常連さんも多くいらっしゃいました。正直、こんなに甘納豆を買いに来る人がいるんだと驚きました。


『いつもありがとう』って声をかけてもらえて嬉しかったし、何より甘納豆のおかげで自分の生活があることに気づきました。その日の体験から、家業を継ぐことを決意します。まずは滋賀の老舗菓子店に就職し、2年間接客スタッフとして和・洋の菓子について学びを得ました。

縮小傾向にあった甘納豆業界、試行錯誤する中で挑戦したイタリアでの出品


2年の月日を経て、2016年、26才で家業の甘納豆専門店「斗六屋」に入りました。

ただ、甘納豆業界は、廃業が相次いでおり、市場は縮小傾向にありました。


(富士経済 2008〜2020年 食品マーケティング便覧より)


主要な原因は、若い人が食べないこと。実際、お客様のほとんどは60代以上でした。若い人にとっては、ご年配のお菓子というイメージがとても強く、縁遠いものでした。

「どうしたらこのイメージを変え、若い人に興味を持ってもらえるだろう?」まずは接点を作ろうと地元のマルシェなどへ新しく出たりし始めました。


地元のマルシェへ出店(2016〜2017年)


その中でふと、「海外で認められたらきっかけになるのでは」と思いつきました。そして2018年、イタリアで開催されたスローフードの世界大会に甘納豆を出品しました。スローフードは各土地に根差した食文化を大切にしようという草の根運動です。本部がイタリアにあり、2年に一度、世界中の人が集まるイベントが開催されていました。


2018年イタリアのスローフードイベントにて甘納豆を出品

イタリアで感じた甘納豆のポテンシャル。ブランド立ち上げのきっかけに

ただ現地での反応はイマイチでした。わかってはいたことですが、豆を甘くするという文化は日本独特で、受け入れられにくいものでした。ただ、豆は植物性でアレルギーも少ないことから、世界中の人が食べるポテンシャルを持っていることは改めて確認できました。「世界中の人に甘納豆を食べてもらいたい」そう強く思いました。では「世界中の人々が食べているお菓子ってなんだろう?」自由時間に街を歩いていると、たくさんのチョコレートジェラート(アイスクリーム)が。この2つがまさにイタリアだけでなく、世界中で愛されているお菓子でした。



「これらと甘納豆を組合せられないか?」

そんな思いから、帰国後、まずはチョコレートにヒントを得て、2020年、地元のクラフトチョコレート「dari K」協力の元、2年の開発期間を経て、原材料であるカカオ豆を使った甘納豆を発表しました。これはカカオ豆=チョコレートという常識にとらわれない、新しいお菓子でした。


イタリアから帰国2年後の2020年に発表した「加加阿甘納豆」


ただ、新商品をつくるだけでは甘納豆のイメージを変えるのは難しい。もっと根本的に変える必要があると思い至り、工芸のブランディングで有名な中川政七商店コンサルティングの元、2022年、新ブランド「SHUKA」が生まれました。


2022年に立ち上げた古くて新しい"種"の菓子ブランド「SHUKA」

ジェラートを作りたい。立ちはだかった3つの壁

ただこの時も「いつかジェラート屋をしたい」と思っていました。現地で食べたジェラートが美味しくて、帰国後もよくお店をめぐって食べていました。ただ困ったことがありました。それは、自分が体質的に牛乳でお腹を壊してしまうこと。食べた時は美味しくて幸せなのに、後で後悔する。日本人には多いそうです。 そんな人のために牛乳不使用のアイスがあります。色々と食べてきましたが、あのイタリアで食べたジェラートの美味しさを自分が感じるものはありませんでした。


「じゃあ自分で作れないか」と思いました。でも私は甘納豆しか作ったことがなく、ジェラートはもちろん素人です。ジェラートをつくるにはいくつかの壁がありました。具体的には資金面、衛生面、ノウハウの3つです。


導入したイタリアの老舗メーカー、カタブリガ社のジェラートマシン


ジェラート製造には、専用の設備が必須なのですが、それらを揃えるにはまず数百万円が必要です。また、アイスクリーム製造許可も必要です。生もののため、通常の菓子製造許可より基準が厳しく、当時の老朽化した工房では到底基準をクリアできませんでした。別で工房を新設する必要がありましたが、さらに莫大な費用がかかります。そして、根本的にジェラートを作ったことがない、ノウハウが全くない、ということです。




2018年当時の工場

3つの課題を乗り越えた方法

これらの課題を全て乗り越え、今日に至りました。どうやって乗り越えたのか?まず、設備・新工房の資金に関しては、新型コロナウィルス感染症のため設けられた大型の補助金に採択されました。またコロナ禍の2020年に事業承継をしたことも重なり、様々な融資制度などを活用することができました。そのおかげで、SHUKAのコンセプトショップ新築時に、ジェラート工房も併設することができました。


SHUKAコンセプトショップ併設のジェラート工房(2022)


製造ノウハウに関しては、まず本を買って読んでみたのですが、そこで知ったのはジェラートには理論があるということ。ジェラートは大きく4つの成分、脂肪分、水分、糖分、空気から成るのですが、それぞれのバランスがある程度決まっており、それを守らないとジェラートにはならないということでした。


ジェラート配合表の例


各成分の数字が並んだ表があり、それを見た時、「自分にもできるかもしれない」と直感しました。なぜなら、私は家業に入る前、大学院で研究をしていたからです。



小さな頃から生き物が好きだった私は学者を志し、憧れの京都大学大学院に進学し、微生物を研究していました。研究では、0.01%の単位で試薬を配合したり、表にまとめて数値の分析をしたりを毎日のようにしていました。


大学院生時代に研究していた脂肪球(自身の修士論文より)


さらにその時の研究テーマが、脂肪に関わるものだったんです。脂肪は細胞内では「脂肪球」という形で保存されているのですが、ジェラートの本を見た時、数年ぶりにその脂肪球の絵を見て驚きました!「ジェラートは作ったことがないけれど、研究はやってきた。この知識や脂肪分などの成分の化学知識は美味しいジェラートをつくる役に立つはずだ」と思いました。とはいえ、ジェラート経験ゼロの私。でもジェラートを作ってみたい。ジェラート店で働いてみたいと思うようになりました。


あの現地のイタリアの人たち、世界の人たちにも美味しいと思ってもらえるものを作りたい!そのためには、世界に通じる味を知っている、世界チャンピオンの元で学びたいと、イタリアに行くつもりでしたが、世界チャンピオンは日本にいることが分かりました。

そのお店、石川県にあるマルガージェラートへ行きました。サーブされたジェラートは、口に入れると牛乳のコクや風味が広がって、それでいてさっぱりとしたキレもあり。一口、また一口とあっという間に完食してしまいました。



憧れのジェラート店にて修行(2021/8)


ご家族を中心に経営されているお店でした。工房は真ん中の通路を挟んで設備が並んでおり、2人くらいが並んで作業できる程度の広さでした。「規模は関係なく、世界に通じる味は作れるんだ」と実感しました。ジェラートへの興味で色々な質問をしました。全てに熱く答えてくださり、結果2時間くらいそのまま話していました。ジェラートへの愛の深さを感じ、ここでジェラート作りのノウハウ技術はもちろん、その心を学びたいと修行のお願いをしました。 


少し時間をくださいとのことでその時は帰りましたが、後日受け入れokの連絡を頂き、2021年の夏、私は憧れのジェラート店で働かせてもらえることに。すぐ近くにマンスリーマンションを借り、修行に集中するため、家業の甘納豆屋は1ヶ月以上の休業を決めました。

ジェラートは科学だ。苦労した「牛乳」と「豆乳」の違い

お店で出されているのは、当然本場イタリアで認められたジェラート。

よくおっしゃっていたことが「ジェラートは科学だ」ということ。特にテクスチャー(食感・質感)を大切にされており、それを生み出すのは科学であり、緻密で繊細な配合理論でした。


ジェラート(アイスクリーム)の構造図


ジェラートは大きく4つの成分、水・脂肪・糖・空気から成っています。例えば、その中でも水と脂肪(油)は通常混じり合わないものですが、これらが混ざった状態を乳化と言い、この状態を安定させることが美味しいジェラートには重要です。それぞれの働きをする物質を、乳化剤、安定剤と呼びますが、これらの分量が0.1%違うだけで、テクスチャーは大きく変わってしまいます。



教わった配合理論の中でも、特に学びが深かったのが"糖”の働きについてでした。

美味しさに重要な"甘み"はもちろん、テクスチャーにも大きく影響を与えていたのです。

なめらかなテクスチャーは、含まれる氷結晶が小さいことに由来します。糖は水を抱き込むことで、氷結晶を小さくする働きするのですが、この性質の強さは、糖の種類によって大きく異なります。イタリアンジェラートの職人は、複数の糖を組み合わせることで、理想のテクスチャー生み出していたのです。


修行期間中は、教わったことを忘れないよう、中古のジェラートマシンをマンションの部屋へ持ち込み、帰宅後に試作をしていました。



修行期間後は、SHUKAがスタートし、営業の前後で試作を繰り返しました。そして、配合理論は本場イタリアンジェラートのものを踏襲しつつ、牛乳を使わない"種"をはじめとする植物性の原材料のみを使った独自の配合を作ってきました。最も苦労したのは、牛乳と、SHUKA gelatoのベースである豆乳との違いです。牛乳と比べて豆乳は、水分が多めで脂肪分が少ない傾向にあります。水分が多いと、シャリシャリとしたシャーベット様の仕上がりになりやすく、ジェラートとしては失格です。また脂肪分が少ないと、コクに欠けることから、種の自然なコクを生かすことに気を付けました。



またこれまでのSHUKAシリーズと同様、なるべくシンプルな構成にするため、一般的に用いられる乳化剤・安定剤などの食品添加物は使わず、種や植物原料に本来含まれる乳化作用や安定作用を持つ成分を活かす点も工夫しました。

誰もが一緒にジェラートを食べる幸せな時間を共有できること、甘納豆がより身近な存在になることを願う


これまでの甘納豆専門店として向き合ってきた"種""糖"への知見、大学院で脂肪の研究をしていたキャリア、一流のジェラート職人から学んだ本場イタリアンジェラートの配合理論、全てが重なり、この「SHUKA gelato」は生まれました。



私のように牛乳が苦手な方にはもちろん、そうでない方にとっても、"種"の美味しさを感じて頂ける、代替品の枠を超えた新しいジェラートです。

誰もが一緒に、ジェラートを食べる幸せな時間を共有できること、またこの「SHUKA gelato 」を通して、種の魅力を伝え、甘納豆がより身近な存在になることを願っています。



<有限会社斗六屋について>

1926年(昭和元年)に京都で創業した甘納豆専門店。初代の目指した”都名物”の甘納豆を、後世に残すべく、進化させ続けています。

代表:代表取締役 近藤健史

本社所在地:〒604-8852 京都府京都市中京区壬生東大竹町5

設立:1982年9月(創業1926年)

URL:https://www.torokuya.shop/

事業内容:甘納豆・種菓の製造・販売




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