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【イベントレポート】南九州サツマイモ経済圏で起きている危機とは? 日本最大サツマイモ生産地・最前線から緊急レポート

著者: 株式会社welzo

2023年7月20日、Venture Café Tokyoで「Save the Sweet Potato」(SSP)プロジェクトによる緊急レポート発表を実施しました。今回はその模様をお届けします。


[登壇者]

後藤 基文 氏 株式会社welzo Biz Promotion Division 取締役(モデレーター)

野秋 収平 氏 株式会社CULTA 代表取締役

吉元 義久 氏 薩摩酒造株式会社 取締役 製造本部長

児玉 拓隆 氏 小鹿酒造株式会社 常務取締役

サツマイモの疫病がまん延! 約300億円分の市場が失われた日本の焼酎業界

サツマイモの危機に組まれた業界を超えたタッグ



後藤:株式会社welzoの取締役の後藤と申します。「welzo」は福岡に本社を置き、農家さんへの農業資材、ホームセンターの家庭用の園芸用品、飼料や肥料の原料等を取り扱う専門商社で、「植える」と「well」から取った社名になっています。業務を通じて培ったインダストリー、アカデミア、ガバメントといったつながりを通して、社会課題を解決していきたいと思っています。サツマイモで問題となっている基腐病にフォーカスした取り組みを行っています。



吉元:薩摩酒造の吉元と申します。1936年に設立され、鹿児島・薩摩半島の一番南の枕崎市に本社がございます。主力銘柄としましては芋焼酎の「白波」、麦焼酎の「神の河」になります。また、主にお土産用として「さつまいもビール」という発泡酒や、お茶などの飲料水も作っております。



サツマイモの一大産地の中に蒸留所を作り、地元の新鮮なイモをそのまま焼酎に仕込んでいます。近さを生かし、昔からお付き合いの農家さんと年に1回の勉強会をしたり、仲買さんも含め、地域を盛り上げる活動をしたりしています。



児玉:鹿児島県鹿屋市にあります小鹿酒造の児玉と申します。1971年(昭和46年)に、4つの小さな焼酎蔵が集まって作った蔵元です。メインブランドは芋焼酎「小鹿」で、地元、大隅半島の酒販店、飲食店では小鹿焼酎カバー率100%というくらいに地元の晩酌酒として、愛されている焼酎です。



会社組織としては有限会社神川酒造という小鹿酒造100%出資の子会社と、有限会社小鹿農業生産組合を持っています。神川酒造は仕込み量が小さく試験工場としての役割を果たしております。農業生産組合は原料のサツマイモの安定確保、若手農家の育成、サツマイモ作りから焼酎造りまで一貫した生産体制を固めるために平成6年に設立し、契約農家の面積は100ha、直営農場面積が50haになっています。



野秋:株式会社CULTA代表の野秋と申します。東京大学農学部修士課程在学中にスタートアップとしてCULTAを創業しました。農業のバリューチェーン全体に興味があり、学生時代には東南アジアの農業関係や、東京都中央卸売市場で働いたこともありました。それらの経験から在学中に株式会社CULTAを設立しました。品種改良等をグローバルに展開すること、農家の収益性を上げて持続性ある農業を作っていくということをミッションとしています。


品種改良には時間がかかるのですが、これを高速化させるために多くの専門家と連携して技術開発をしています。現在は日本品質のイチゴを東南アジアで生産展開しているところで、これからサツマイモにも取り組んでいきます。


後藤:サツマイモをめぐるサプライチェーンを我々はサツマイモ経済圏と呼んでいますが、その中で、基腐病からサツマイモを守っていきたいということで2023年5月に立ち上げたコンソーシアムが「Save the Sweet Potato」プロジェクトになります。早くも100社以上のメディアに取り上げられ、大きな反響を呼んでいます。そもそもサツマイモ基腐病とは何なのかということを説明していきます。

サツマイモの深刻な病気、基腐(もとぐされ)病とは?



後藤:サツマイモは米と同じように食料自給率が100%に近い作物です。全国の生産量の45.8%、ほぼ半分が鹿児島と宮崎を合わせた南九州で生産され、そのうちの半数が焼酎用になっています。つまり、全国のサツマイモのうちの約1/4が焼酎用のサツマイモということになります。


サツマイモというと生食を想像されるかもしれませんが、焼酎用イモやサツマイモデンプンなど加工用の用途も大きな割合を占めています。この焼酎用のイモで、今、危機が起きています。それが「サツマイモ基腐病」です。



後藤:サツマイモ基腐病はサツマイモの茎やイモが腐ってしまう感染症で、感染力が強い疫病です。特に芋焼酎用のイモである「コガネセンガン」という品種で大流行していて、鹿児島産サツマイモでは2018年に15万トンの収穫があったものが、2021年には8万トン、およそ半分になってしまっていました。


これを焼酎の本数ベースに直すと3500万本、そして売上ベースでいうと300億円分もの焼酎になります。ちょうどコロナ禍で飲食業界の需要が落ちているときでしたので、あまり顕在化しませんでした。が、すでに一部のメーカーさんでは販売停止になっているところもあり、需要が通常であったならば、多くのメーカーさんの供給がストップしていたのではないかと思われます。



基腐病は土壌中の菌が水に乗って感染していきます。つまり、近年多発している台風や集中豪雨によって圃場(畑)が浸水すると、その水によって基腐病が近隣の圃場へ伝播していきます。



なので、SSPでは、まず1つ圃場の排水性を良くして、水をとにかく外へ流すという対策を呼び掛けています。


2つ目は土壌の力が非常に弱まり感染しやすくなっているので、これを改良する呼びかけ、土壌改良をしていこうとしています。そして3つ目は基腐病に耐性のある新たな品種を開発していきたいと思っています。既に感染しにくい「みちしずく」という品種が開発されてはいますが、まだ研究開発していきたいと思っております。


野秋:基腐病の原因は糸状菌と言われるカビの一種で土壌にいる菌です。なので、人間の足や、掘り起こす機械などについた土でも広がっていってしまいます。日本で初めて発生したのが2018年のことで、まだ5年しか経っていません。日本における農業生産は基本、1年に1回になりますから、簡単に言うとPDCAが5回しか回っていない。だから対応策がまだまだ取られない状況にあります。品種改良もサツマイモの場合5年では一般的にはかなり難しい。土壌改良でなんとか耐え忍んでいるっていうような状況だと認識しています。


品種によって基腐病に強いものや弱いものがあることはわかっているので、品種を変えるのも手ですが、焼酎の原料のほとんどを占めているという「コガネセンガン」という品種と、生食で人気のある「紅はるか」の2つが基腐病に弱いんですね。なので、単純に品種を変えればいいというのは難しい部分があるのだと思います。関東にはまだ広がっていませんが、時間の問題かなというふうに見ています。


後藤:なるほど。では、現場での影響を教えていただけますでしょうか?


吉元:薩摩酒造での一番の影響は農家さんからイモをいただけないので、予定している数量が作れなかったということですね。2021年は予定の7割強ぐらいしか生産できませんでした。2022年は少し改善して85%ぐらい。当社は少し余裕を持って在庫を抱える主義ですので、何とかギリギリ、品切れを起こさずに済んだというのが現状です。今年、去年並みであれば我々は何とか繋がっていけますが、もっと酷くなるのであれば品切れに繋がり、お客様にご迷惑かけてしまいます。



吉元:また、コストが上がるのも問題です。農家さんが同じ畑で、例えば1反3トン採れていたのが2トンしか取れないとなると、農家さんの経営を考えたら値上げせざるを得ない。業界全体がサツマイモの値段を上げてまして、去年は2割ぐらい上がりました。今年もまた少し上がる予定で、それはそのまま原価に影響してきますので、経営的には非常に厳しいです。


さらに農家さんが非常に苦しくて離農、つまり農家を辞める方が出てきています。農薬や生産そのものに対する補助金等が行政からいろいろ出ているんですが、それでもやっぱり苦しい。ただでさえ農家さんの平均年齢が70歳以上で、そんな苦労するならもう辞めてしまおうという農家さんも多く出てくるのではないか。そういう心配もしております。一刻も早く解決してほしいなと思っているところです。


後藤:農家さんの生産が減少するということは給料もその分減少することと一緒なんですよね。高齢で、普通に栽培してもなかなか難しいところを、いろいろな対策をする手間が増えるので、農家さんの負担が大きくなるんですね。それをどうするかっていうと、やはり辞めようかという判断が出てきてしまうということですね。では、小鹿酒造さんで出ている影響と取り組みについてお願いします。



児玉:まず1つ、大きなことは薩摩酒造さんと同じく去年、一昨年から、予定通りに入ってこないので減産になっています。また、入ってきたイモも腐っている部分が多い。それをトリミング、腐ったところを取り除くんですが、その量もだいぶ増えてロスが多い。トリミングしたイモの廃棄量も増えていて、廃棄代も増えていき、コストが上がってきています。それとやはり、サツマイモ栽培する農家さんが減ってきている。サツマイモから他の作物へ転換される農家さんが増えてきています。今後、基腐病がなくなったとしても、また、サツマイモを作ってくれるかどうか、懸念を感じています。


弊社に関しては販売量はそんなに変わってませんが、他のメーカーさんでは焼酎を作れず、他の原料を使って新商品を出されたり、銘柄を絞って作ったり、出荷規制をしたりというところも出てきています。また、去年の8月に値上げをしましたが、それ以降に、いろいろな資材や燃料やといったものの値段が上昇していますので、利益が薄くなってきています。

基腐病に対する今後の取り組みは?

後藤:原料が減るということは、安定した供給ができなくなるということですよね。基腐病による一時的な生産の減少だけでなく、農家さんが辞める、または他の作物に変えてしまう、さらに離農するところまで行ってしまうと元の生産量に戻すのは難しい。となると、酒造会社さんの原料調達に大きく影響するところです。


また、サツマイモ経済圏として考えれば、焼酎だけでなく、うどん等の麺類に使われるでんぷんや生食用の需要にも関わっていく部分で影響は大きいものです。そういうわけで立ち上がったのがSSPになります。今後の取り組みについて、CULTAさんからお聞かせください。



野秋:品種的なアプローチからお話させていただきます。人間でいうと5年っていうと長く感じるんですけど、育種的に言うとまだ日が浅い病気なんですね。なので品種改良された品種は少ないですが、既に基腐病に強い品種っていうのがあります。例えば、生食用でいうと「紅まさり」、焼酎では「玉茜」、先ほど出た「みちしずく」という品種です。一部は既に焼酎に使われているかと思いますが、明らかに強い品種が見つかっているので、ある程度、遺伝子解析で何かできそうだぞとは思っています。


ただ、我々CULTA単体でやるのではなく、例えば大学の研究室と共同でやるとか、実際に育種する部分を、どこかと一緒にやっていくというような共同の取り組みをしていけたらと考えています。


そして、特に焼酎用で言うと、「コガネセンガン」の味や風味に近づけていけるように、品種改良の数を打っていって、スピードアップ化していくのが必要です。これはCULTAが得意とする部分なので貢献できると思います。


他方で、いくら高速化するといっても3〜4年はかかってしまいます。その間にできることとして、先ほども出た土壌改良の話があります。排水性の向上に加えて、窒素が多いと出やすいのではないかという仮説があります。そういう圃場管理の部分で対処できることが出てきているので、まずは打つ手を増やしていく。そして、我々としては、どこかと一緒に品種を作っていく、の両軸で進められたらと思っています。


後藤:ありがとうございます。酒造会社様としては「コガネセンガン」を別の品種に変えられるのかどうかというところも含めて対策をどう取られているのでしょうか。



児玉:小鹿酒造でも一昨年から基腐病に強い品種で試験仕込みをしているところです。従来は「コガネセンガン」を主体にして焼酎造りをしてきていますので、「小鹿」には「コガネセンガン」の風味が必要なところです。また、地元でよく飲まれている晩酌酒ですから、味が変化すると地元からクレームが来てしまいます。なので、「みちしずく」や「こないしん」といった基腐病に強い品種に変えたときにどうなるか。または「コガネセンガン」で作ったものとブレンドした時にどうなるかを意識しながら、新しい品種の焼酎作りにも力を入れているところです。


さらに去年から、農家さんと収穫のタイミングや、いつ仕込みを始めたらいいかなどを密に連携を取るようにしています。できるだけ病気が広がる前に、早く収穫して早く仕込みを終わらすなどですね。今年からは各蔵元さんもそういった努力をされてらっしゃるようです。


後藤:薩摩酒造さんはいかがでしょうか?



吉元:新品種に関しては、今年から「みちしずく」が少し入ってきていまして、来年以降、基腐病に強い品種がもっと増えるんだろうと予測しています。我々も「コガネセンガン」で作った味、品質を守りながら、味わいを変えない範囲で基腐病に強い品種への移行も考えています。農家さんからすれば少しでも基腐病に強い品種を植えて、収穫を増やしたいというのは、当然の動きですから、その辺の対応は考えていかざるを得ないですよね。


それから、小鹿さんと同じですが、農家さんとのコミュニケーションを密に図る。そして、県をはじめとして、いろいろな行政から降りてくる基腐病対策に良い情報を農家さんにうまく流してあげる。welzoさんのような農薬メーカーさんにも勉強会に入っていただき情報提供していただくなどを従来以上にやっていきたいです。


また、サツマイモは大体、前年に採ったイモを次年の種イモとして使いますが、その段階で基腐病が入ってると、栽培の初期から基腐病に侵されてしまいます。でも、見た目には感染しているかわからないんですね。そこに、種イモを蒸熱処理して菌を殺す方法が開発されましたので、自前で設備を作りまして、農家さんの持っている種イモを蒸熱処理をして返すという取り組みを始めました。さらに、農薬を撒くドローンも購入しました。希望がある農家さんにはドローンを提供して農薬を散布するのも力を入れてやっていきたいと考えています。


後藤:いろいろな話が伺えました。とはいえ、いち農家やいち酒造会社ではなかなかできることではありません。プロジェクトに賛同いただける方の協力を得ながら、サツマイモ経済圏を守っていくコンソーシアム「Save the Sweet Potato」を作っていきたいと思っています。






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