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非科学的な勉強を終わらせよう。算数特化のタブレット教材『RISU算数』開発の裏側にある創業者の信念

著者: RISU Japan株式会社

子どもの教育には時として、不毛で、無用な、回り道がたくさんある。もっとデータに基づいた正しい学習法で、最短ルートを辿ってほしい──


主に小学生を対象とした“算数特化”のタブレット教材『RISU算数』を提供する、RISU Japan代表の今木智隆はこう考えます。『RISU算数』は就学年に関係なく、先々の内容を学習できる「無学年制」のカリキュラムを採用。利用者の75%が先取り学習を実践し、算数検定合格者も輩出しています。


また、教材の他にも、学習塾経営や姿勢改善ペンなどを展開。いずれも、子どもにとっての障壁を科学的アプローチから取り除き、才能を開花させるための最短距離を歩めるようにしたい、という思いがあるからです。


「非科学的なものに僕は興味がない」と今木は断言します。その信念から生まれる事業やサービスの成り立ち、RISU Japanが目指す先を語りました。

「ドラクエみたいな算数学習ツールをつくろう!」冒険するようにワクワクする算数学習を子どもたちに

── 子どもの頃、算数の勉強は好きでしたか?


今木:好きというよりは「得意な教科」でした。天体観測が好きな子どもで、惑星の軌道を計算したかったんです。「何年後に彗星が地球に近づくか」みたいに。ちょうど、僕が小学校へ上がる前にハレー彗星が大接近する一大イベントがあって、地元の京都から沖縄まで観に行った覚えがあります。


深夜に金星を観察したり、科学雑誌の『Newton』を読んだりして過ごすうちに、だんだんと算数を超えて、数学的な知識も必要になってきました。軌道計算のために高校数学まで先取りして学んでいったので、おかげで大学受験まで数学で困ることはなかったです。その分、心置きなく、テレビゲームの『ドラゴンクエスト』に熱中できました(笑)。


── 日本の「RPG黄金時代」とも呼ばれる頃ですから、それは何よりです(笑)。


今木:あとは、親の方針でお小遣いが少なかったこともあり、遊び道具も作るのが当たり前でしたね。「ミニ四駆」ブームのときも新品は買えないので、壊れたものを集めてきて改造して走らせたり。工夫して遊ぶ、というのが僕にとっての普通だったんです。


でも実は、こういった子供の頃の体験は、僕らがつくる『RISU算数』に活かされています。


── 確かに『RISU算数』はゲーム画面のデザインを感じさせます。


今木:『ドラゴンクエスト』のようなRPG(ロール・プレイング・ゲーム)は、物語を進めていくほど、ゲーム内でイベントや報酬が用意されていますよね。たとえば、仲間が増えたり、乗り物が使えたり、より強い敵が出てきて苦戦したり。


『RISU算数』は「ドラゴンクエストみたいな算数学習ツールをつくろう!」というアイデアを形にしたものです。学習そのものがゲームのような世界観で進行します。問題を解き進めていくことでイベントが起き、ポイントが貯まって、報酬がもらえる。その報酬とはRPGで「より強い敵が出る」みたいに、より難しいスペシャル問題に挑めるようになるのです。


先日、あるお客様から届いた声では「うなりながらスペシャル問題と向き合う経験で、考える楽しさや粘り強さが養われ、結果的に娘の好成績につながっているように感じます。娘はポイントが貯まると、すぐにスペシャル問題が解けるアイテムに交換してしまいます」とありました。


── ゲームのご褒美がゲームであるように、勉強のご褒美も勉強であると。


今木:他の学習教材を調べると「勉強のご褒美にゲームができる」といった機能が付いているものはありましたが、「勉強そのものがゲームに近しい世界観で進む」というサービスはなかった。学習内容もデータ分析で最適化していけばもっとよくできるはず。


でも、無いなら自分でつくるしかありません。「自分が子どもの頃にあったらよかったな」という想いをパッケージにしたのが、『RISU算数』なんです。


オンライン教育が進化し、タブレットなどの技術が普及した2012年頃に、アイデアを具体化し始めました。1年半ほどの開発を経て、2014年末にリリース。全ての学習データはサーバーに送られ、それに基づいて子どもごとにカスタマイズした学習教材が提供されます。


RPGやスマートフォンゲームの仕組みも参考に、毎日の学習を促進する仕掛けも取り入れています。お客様からは「通学や習い事の前など10分のスキマ時間で、ステージクリアとポイント集めをしながらゲーム感覚で自ら続けてくれるので、親としては助かっている」という声もありました。まさに思い描いていた使われ方の一つだと思います。


今では、僕らの算数教材から得られた学習ビッグデータ数は30億件を超えました。算数の成績が伸びるだけでなく、全国模試1位を取ったり、先取り学習で算数検定に合格したりする子どもが、続々と出てくるサービスになっています。

先生が教えるのが得意な教科も、生徒が苦手な教科も、どちらも第1位は算数


── 学習科目でも「算数」に的を絞ったのは、なぜですか?


今木:東京でコンサルティング会社に就職して、教育関連の企業を担当していた経験が大きいです。教育業界は子どもに教材を提供してはいますが、主な顧客は保護者たち。乱暴に言えば、子どもの成績にかかわらず、保護者からの契約が切れなければ、ビジネスは続けられる。実際のところ、子どもの学習データの分析が手つかずの企業も多くあったのです。


そんな時、ある教育機関が発表した調査データを見て驚きました。先生に「教えるのが得意な教科」を聞くと第1位は算数で、子どもに「苦手な教科」を聞くと第1位が算数なんです。


参照:ベネッセ教育総合研究所 第4回学習指導基本調査 [2007年]


── 教育の現場では認識がズレているともいえる。どうしてなのでしょう?


今木:算数が嫌いになる理由は、算数だけが「積み上げ型」かつ「複合的」な科目だからです。

四則演算とかっこの取り扱いがわからなければ計算問題は解けませんし、文章題なら読んで計算式を作り上げなくてはならない。図形問題や速度計算は、頭の中でイメージを作る想像力も関わってくる。算数は、まさに学習の総合格闘技のような面があるんです。



それ以外の教科は、仮に一部分が苦手でも進められます。多くが暗記型で、時間をかければ壁を超えやすいのですが、算数や数学だけはそうもいかない。全てのステップで「苦手を残さない」ようにして、つまずいたところを重点的にクリアしないといけないのです。


── 算数という科目で陥りやすい課題に、現状では教育現場でも対応しにくいと。


今木:それでいうと、学校の教室や教育の形って、すでに100年以上も大きくは変わっていません。江戸時代の「寺子屋」は、今で言う個別指導に近い形で教育をしていました。しかし、産業革命を迎えると大量生産の時代が到来し、労働力を担う若い世代にも基本的な読み書きや計算が必要とされるようになった。


その結果として、「クラス分け」などの学校教育の形が生まれましたが、明治時代の資料を見ても今とほとんど変わりがない。エアコンが付いたり、給食のメニューが良くなったりはしましたが(笑)。

宿題はテキトーでいい⁉非科学的な教育論から、データ分析で常識をひっくり返す学習法


─とはいえ、子どもの学習データを詳しく分析して、一人ひとりに合わせて教えるのは現実的ではないでしょう。


今木:そうですね。でも、分析はすごく大事なんですよ。僕は将棋が好きなのですが、かつては飛車や角といった大駒が戦略でも重要とされてきました。しかし、AIによる分析が進むうちに、実は金や銀といった駒の重要性が見直された。あれだけルールが定まった将棋という種目ですら、データ分析で常識は簡単にひっくり返る。教育も同じだと僕は考えます。


仮に、ある生徒のテストの結果が70点だったとしても、ケアレスミスで30点失っているのか、図形や文章題でつまずいているのか、全体的に7割ほどの理解度なのかは、点数を見るだけでは判別できません。もしかしたら、本人の体調が悪かっただけかもしれない。かといって、ミスをした箇所のすべてを総復習させるのも非効率すぎます。


これを医療現場で喩えるなら、患者が「痛い」と訴えている原因をなるべく特定し、医師は処方箋を出したり処置したりするのが当然でしょう。本来であれば、勉強も同様のはず。


現代はIT技術が進化しており、既存の教育の枠組みだけでは捉えられない仕事も出てきました。本来、人間は多様な能力を持っており、それを伸ばす教育も必要です。僕自身の性格として非科学的なものに興味がないのも大きいですが、データを分析して誰にとっても「正しい学習法」を導き、成果の出るサービスが必要だと考えるようになりました。


── 『RISU算数』の根幹にデータ分析とその子に合わせた学びがある理由ですね。


今木:教育の非効率さの現れの一つに、僕は宿題を挙げます。アメリカでは1990年代から宿題の研究が盛んで、効果についてさまざまな調査が実施されています。その結果、ほぼ全てで「宿題は小学生レベルでは何の効果もない」と明確に示されているのです。むしろ、子どもに悪影響を与える可能性さえある。日本を含む、世界中の子どもを対象にした調査においても、学校から課される宿題の量と、学生の成績の間には何の相関もなかったのです。


仮に、すでに足し算を何不自由なく解ける子どもに、足し算をやらせてもたいした意味はありません。逆に、まだ理解していない事柄を宿題で課しても、大元が理解できていないわけですから意味がない。まだ授業で教わったほうが効果が高いはずです。しかも、親子ゲンカの原因にもなりがちで、勉強嫌いも進みますし、テキトーに済ませていいんですよ(笑)。


もう一つ、教育業界には「一部の成功体験を手本としがち」という風習もあります。それらの教育論の多くは、本人の資質や取り巻く環境も起因しますし、ほとんどが非科学的です。このあたりの科学的アプローチへの課題感は、僕が『小学生30億件の学習データからわかった 算数日本一のこども30人を生み出した究極の勉強法』を書いた理由でもあります。


タブレットだけではなく塾や姿勢改善のペンも⁉教育教材だけにとどまらないのは、子どもの才能を伸ばし、最短距離で実現させたいから


── RISU Japanでは学習塾運営もされています。『RISU算数』との違いは何ですか?


今木:授業は少人数制で、中学受験を手厚くサポートするようにしています。また、「偏差値リカバリー」といって、完全個別指導とコーチングで算数のつまずきをカバーするコースもあります。


「RISU塾」は僕らにとって、普段はタブレット教材の先にいる、子どもたちの姿を実際に感じられる場所にもなっています。こちらで子どもたちや保護者の方からいただく声はヒントになっています。


── アメリカでも事業を展開されているのは、世界進出の展望が……?


今木:いえいえ、きっかけはたまたまです。水道橋駅近くのビルの4階にある中華料理店で、気づいたらアメリカ進出が決まっていたんです(笑)。アメリカでは算数の中学受験問題をアレンジした「クリティカルシンキング育成教材」として、シリコンバレーのアフタースクール(※日本でいう「学童クラブ」のような場)で導入されています。実は、日本の中学受験問題は、名だたるIT企業に勤めている大人であっても解けないくらいに、非常にロジカルに作られているんですよ。


── RISU Japanでは「スマート姿勢改善ペン」といったタブレット以外の商品開発もしていますね。なぜ、作ったのですか?

今木:このペンは、ペンと目の適正距離を検知できる360度近接センサーとマイクロチップを搭載していて、よい姿勢でないと書けない仕組みのペンです。


これは、僕の子どもの姿勢が悪くて怒ることがあった、という個人的な経験から生まれているんです(笑)。親もイライラするし、子どもだって怒られたら嫌な気持ちになる。姿勢が悪いだけで親子の時間がギスギスして、そこに不毛な時間が費やされるなんてもったいないですからね。それなら、その時間に自分が興味あることや好きなことをして、才能を伸ばすことを考えて欲しいです。


学習塾、アメリカ進出、スマート姿勢改善ペンといろいろやっていますが、僕は科学的なアプローチのもとに人類が進化する、という世界観が本当に好きなんです。この考えさえ根底にあれば、RISU Japanが「できること」はもっとあると考えています。


── 今後、5年から10年ほどのタームで見て、RISU Japanとしての構想を教えてください。


今木:先ほどもお話しましたが、100年変わらずに続いているような学校教育を、僕が変えられるとも、変えたいとも思ってはいません。RISU Japanは教育ではなく「世界の才能を伸ばす」ために生まれた企業です。


これからも、自分の能力を変なところで奪われたり、時間を無駄にしたりすることなく、最新のコンテンツやテクノロジーを活用して、才能を伸ばすことに注力できるプロダクトを作っていきたいですね。


僕自身は科学的アプローチが好きですが、一方で「根性」という考え方も結構好きです。ある程度根性がないと何もできないのも事実です。ただ、根性が発揮できるジャンルはいくつも持てません。野球の大谷翔平選手が、チェスも経営も茶道も極めようなんて、いくらストイックだといわれる彼でもきっと無理ですよね(笑)。


根性を込めて「これだ!」と決めたジャンルに全力で取り組むためにも、それ以外のことは科学的かつ効率的に、無駄なくこなせるようになる。そうなれば、人間の能力はもっともっと伸ばせるはずだと信じています。



取材・文・写真/長谷川賢人




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