海外人材が働く現場で起きる期待と現実のギャップを言語コミュニケーションで解決したい。日本語研修とスピーキングテストを提供するバベルメソッド社の挑戦とは
バベルメソッド株式会社(以下、バベルメソッド社)は、オンライン日本語スピーキングテスト「PROGOS Japanese」の販売・運用と、オンライン日本語会話研修「BABELMETHOD」の販売・開発・運用を事業内容としています。研修のメインは、高度人材への1 on 1オンラインレッスンですが、そのほかにも技能実習生向けプログラムの提供やタイの大学との連携、地域日本語教育事業なども展開しています。それらは一見、一貫性のない動きに見えるかもしれませんが、そこには「職場のギャップを言語コミュニケーションによって解決したい」というひとつの想いがありました。言語コミュニケーションによる課題解決という幹から枝葉を広げてきたその想いについて、取締役の深井朋子にインタビューしました。
その職場の課題、言語コミュニケーションの面から解決しますー日本語研修
「N2に合格しているから即戦力だと思って雇ったのに、育つ前に辞められてしまった」
「返事も曖昧だし、こっちが言ってることを理解したかもわかんない」
日本語教育事業を運営していくなかで、海外人材を雇っている企業や人材会社の人から話を聞いてきた深井は、よくこんなことばを耳にすると言います。
「日本語を学ぶ方々を見ていると、彼らの日本語学習に取り組む姿勢が『健気だな』とつくづく感じるんです。一方で、彼らを雇った企業は『思うようにやってくれない』と不満を抱えている。海外人材が働く現場は、期待値と現実のギャップだらけです。そのギャップを埋める解決策として、CEFRのCan-doで期待値と現実を言語化することが有効だと気づきました」
深井は英語教育業界で長く働いてきました。そこでは、CEFR (Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment) の考え方が主流になっています。CEFRは、多言語に対応した語学力を示す枠組みです。知識の量だけでなく「その言語を使って、何が、どのくらいできるか」 を表した「Can-doリスト」で、パフォーマンスのレベルを表示。たとえば、「相手がはっきり簡潔に話してくれた場合、担当領域や身近な問題について、基本的な情報や意見を交換できる」なら話す力はB1レベルだとされます。現在では、世界共通の語学力の指標として、大学やグローバル企業に広く用いられており、日本の英語科の学習指導要領でも指標とされています。
厚生労働省「就労場面で必要な日本語能力の目標設定ツール」を
ベースに作成した、CEFRレベル外観表
「企業が『幹部候補』とか『高度人材』としてJLPT*のN1やN2取得者を雇ったとき、彼らにどんなことを期待しているかというと、めちゃくちゃ日本語が上手で、日本人と対等にコミュニケーションして業務ができること。会議で堂々と意見を言ったり、ディスカッションを重ねて話をまとめたりといったことをイメージしているんです。でも、JLPTは日本語の知識や読む力を測るテスト。TOEICテストのスコアが必ずしも英語を話す力と一致しないように、N1やN2は話す力とイコールであるとは限りません。ギャップがあるんです」
*JLPT:日本語能力試験。日本語を母語としない人たちの日本語能力を測定し認定するマークシート方式のテスト。N1~N5の5レベルがあり、N1が最もレベルが高い
そこで有用なのがCEFRのCan-doリストです。たとえばCEFR B2のCan-doにはこんな記述があります。
定例のものでも非定例のものでも、公式な議論に積極的に参加できる。自分の分野の議論について行き、強調された点を詳細に理解できる。議論の中で発言をし、自分の意見を説明し、維持することができ、対案を評価し、仮説を立てたり仮説に対して反応したりすることができる
「つまり、日本語を使って経営幹部としてビジネスの場に参加するためには、CEFR B2以上のスピーキングレベルが必要なのに、企業側はそれを認識していないし、応募者にも伝えられていないわけです。でも、CEFRのCan-doで、企業が求めるスキルと応募者のスピーキング能力が明確になれば、『最初からスピーキング能力も経営に対するポテンシャルも高い人を採用するのは現実的ではないので、適性のある人を採用して、内定後に日本語研修を受けてもらおう』『この会議に参加する人は全員、英語がB1レベル以上だから、この会議は英語で行おう」といった具体的な解決策が見えてきます」
海外人材のスピーキング能力が企業の期待値に届かなかった場合、そのギャップを埋める方法のひとつが、日本語研修です。海外人材のスピーキング能力を企業の期待値まで高めるために、バベルメソッド社では、日本語を効率的かつ効果的に学んでもらうプログラムを開発し提供しています。
目標に対して現在地を確認するーPROGOS® Japanese
企業の期待値と現在の日本語を話す力のギャップを埋めるためには、まず現在のスピーキングレベルを知らなければなりません。しかし、日本語のスピーキングレベルを測るテストは多くなく、既存のものは人が面接を行うため、セッティングに手間と時間がかかっていました。そこで、株式会社レアジョブ社が東京外国語大学との共同研究によりオンラインスピーキングテスト「PROGOS®」を開発。日本語版をバベルメソッド社が運営することになりました。
「PROGOS® Japanese」の概要
・言語運用力の“国際指標”CEFRに準拠
・東京外国語大学との共同研究により開発
・オンラインでいつでもどこでも受験可能。テスト時間は約20分
・口頭での自由回答形式で、どのくらい話せるかを直接測定
・単なる結果表示だけでなく学習へのフィードバックを重視
詳細はこちら:https://jl.progos.ai/
PROGOS Japaneseは、2024年5月、法務省出入国在留管理庁より、在留資格「留学」における日本語能力に関し、「日本語教育の参照枠」のA2相当以上のレベルであることを証明するための試験としてリストアップされました。
東京外国語大学の林佳世子学長(写真左)と深井(写真右)
林学長からは「ぜひ日本の役に立つように」と応援のことばをいただきました
ギャップだらけの現場で信頼関係を築くー技能実習生向けプログラム
ギャップは日本語のレベルが高い人材だけの問題ではありません。海外人材を採用するあらゆる業界・職種で見られます。
技能実習生は、多くが自国で約半年かけて日本語を勉強してくるものの、日本の職場に来てから、「挨拶しない」「わからないのにわからないと言わない」「十分なやりとりができない」といった評価を受けることがあります。
「日本では『報連相ができる』がいい部下の条件になっているのですが、報連相をそこまで重視しない国から来た人は、細かく報告したほうがいいなんてまったく思っていないわけです。現場はそういうギャップだらけなんですよね。それなのに言語で共通認識をつくることができないから、お互いに『思っていたのと違う』と違和感だけが募っていく。人間って、期待が外れるとネガティブな感情が強くわいてしまう生き物なんだと思うんですよ。だから、『思っていたのと違う』という感情が、冷たい態度や荒っぽい指示につながってしまって、せっかく日本で頑張ろうと思って来てくれた技能実習生も心を閉ざしてしまうんです」。
Zuitt社の技能実習生向け講座のレッスン風景
コミュニケーションでお互いに歩み寄れるような状態を作るには、雇用側は何を知ってればいいのか、実習生は何を知っていればいいのか。相手の期待値をCEFRのCan-doで言語化することで、お互いにやるべきことが理解できるし、実習生が周りの人たちとの信頼関係を構築しながら働くことができると深井は言います。
「私たちの言語を使ったコミュニケーションスキル習得のノウハウによって、実習生が環境に満足しながら日本に根付き、特定技能やさらに上のフェーズを目指せるようになってもらいたいと考えています」。
海外大学の日本語学科の学生が抱える問題とはータイの大学との連携
タイのアサンプション大学で実施した
卒業後のキャリアを考えるワークショップ
バベルメソッド社では日本語研修もテストもオンラインで行うので、受講者・受験者はどこの国にいても受講・受験できます。なかでもタイでは、教養学部に日本語学科を擁するスィーパトゥム大学と、学生に対する就職支援を目的にした日本語教育プロジェクトの基本合意契約を締結しているほか、複数の大学と連携し、日本語教育と就職をテーマにした講義を行ったり、学生にオンライン会話トレーニングを提供したりしています。
「タイの大学で日本語を教えている先生方と縁があり、日本の経済力が下がってきている影響もあるとはいえ、日本語学科はそれなりに人気の学科であること。しかし、大学では日本語の知識を教えるのが精いっぱいで話すトレーニングまで十分にできず、卒業生のなかで日本語力を生かした仕事に就く人はわずかであることを知りました。そこで、日本企業で就労者になるポテンシャルのある人材に活躍してもらうための方法を話し合い、私たちが格安で学生たちに会話トレーニングを提供することになったんです。オンライン研修なら留学よりコストを大幅に抑えて日本語会話力を伸ばせると学生にも先生にも好評です」。
過疎化する地域の外国人にも手を差し伸べたいー地域日本語教育
最後に取り上げるのは、地域日本語教育に関する取り組みです。
東京圏一極集中が進み人口が減っていくなかで、海外から来た住人たちの居場所となるようなコミュニティを形成できる地域はそれほど多くありません。そのような地域で海外から来た住人が孤独に陥っているとしたら、どこに助けを求めたらよいのでしょうか。
「日本語が話せるようになるためのノウハウと、オンライン教育のインフラという、私たちの2つのアセットがあれば、距離があって物理的に何かするというのが難しい状況でも、効率的かつ即効性のある支援ができます。『できるなら、やらなければ』という勝手な使命感で、地域日本語教育に取り組んでいます。日本語をがんばって勉強している人に手を差し伸べて、彼らの拠り所となるコミュニティをつくりたいと考えています」。
海外人材が最大限に活躍できる環境づくりーまとめ
少子化が進みどこの業界でも人手不足に悩まされているなかで、海外人材にも大きな期待が寄せられています。
「人材の売り手市場においては、獲得した人材をどれだけ上手に活用できるかが、企業の至上命題です。新しく人を雇うには高いコストがかかります。入社してくれた人がすぐに退職することなく、職場になじんでほかの社員と同じようにパフォーマンスを発揮しながら長く働き続けてくれれば、余計なコストもかかりませんし、それぞれが力を合わせることでより大きな成果を生み出していくことができます。そのためには、まずお互いの期待値を言語化して共有することが大切。その言語コミュニケーションをソリューションとして提供し、日本で働く外国人が活躍できる社会の形成に寄与していきたいと考えています」。
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