三菱重工の生物多様性への取り組み、種子島でのアカウミガメ保全調査と成果
三菱重工グループは、生物多様性の保全を目的に、2015年から「種子島のアカウミガメ保全調査」を支援しています。このプロジェクトは「国連生物多様性の10年 日本委員会(UNDB-J)」が推奨する事業として認定を受けており、この夏、6回目の現地調査を終えました。
きっかけは強い想いから
スタートのきっかけは、「環境保全の分野で、三菱重工グループを象徴するとともに、社員の環境保全に関する関心や意識も高めることができるような社会貢献活動がしたい。」という強い想いからでした。2014年、地球環境を守るための調査や研究を行いたい研究者を支援する特定NPO法人アースウォッチ・ジャパンと具体的な活動内容について協議するなかで、国際自然保護連合(IUCN)が作成する「絶滅のおそれのある野生生物のリスト(レッドリスト)」のうち "絶滅危機が増大している" という絶滅危惧II類に分類される生物種を、種子島で生態調査する話が持ち上がります。
それは、日本ウミガメ協議会の松沢慶将会長をはじめとする研究員の皆さんによるアカウミガメの保全調査活動でした。
種子島には、日本の人工衛星打ち上げの中心的な役割を果たすとともに、世界一美しいロケット発射場と言われる「JAXA種子島宇宙センター」があります。三菱重工はここで永きに亘ってロケット関連事業に携わり、事業を通じて共に歩んできた地域と強い信頼関係を築いてきました。この種子島の特性を活かす生物多様性保全の取組みを行うことは、当社グループにとって大いに意義のある活動と思われました。こうして、活動内容とロケーションが当グループのイメージと完全に一致し、翌年度から人的・経済的な支援を実施することが決まりました。
●JAXA種子島宇宙センター
温暖な気候を持つ種子島では、西隣りの屋久島に次ぎ国内で二番目に多いアカウミガメの産卵が確認されています。しかし、それまで本格的な調査が行われてこなかったことから、屋久島で産卵する個体との関連性などは不明でした。そこで当プロジェクトでは、産卵のために上陸したアカウミガメのメスの計測からはじまり、実際に産卵するかを確認したり、識別用の標識を付けたり、他の産卵地で付けられた標識の有無を確認したりすることで、親ガメの回帰性(過去に産卵のため種子島に来たことがあるか)や、他の産卵地から産卵に訪れた移入率を調べてデータ化しています。
また、孵化直後の子ガメについても鱗板配列調査や体重測定を行い、砂中温度の関係性など生態に関する貴重な調査結果を得ています。
●産卵中のアカウミガメ(許可を得て撮影)
●アカウミガメの卵(許可を得て撮影)
グループ社員のボランティア活動
一方、当プロジェクトには、三菱重工グループの社員が一般参加のボランティアとともに毎年参加しています。ボランティア参加の約半数がグループ社員で、事業を支援する自社への誇りを感じながら、環境に対する理解を深めています。ともに調査を行う研究者からは「一般の方と一緒に行動することで、調査の本来の意義を基本に立ち返って再確認できる。また、ウミガメを救出するなど人手が必要な場面でも大変頼もしい」と、参加を歓迎する声が聞かれます。
●調査活動前にレクチャーを受けるボランティアの皆さん
地球温暖化による生態系への影響が声高に叫ばれるようになった昨今、アカウミガメを取り巻く環境も、「産卵地の砂中温度上昇によるメス個体の増加(注)」「海面上昇や、消波ブロックの設置などに伴う、産卵に適した砂浜の消失」などといった脅威にさらされ始めています。
人間社会による活動が多様な形で環境へ影響を及ぼし世界各地に波及するなか、私たちにできることは、自らの行動に責任を持つこと。それがひいては持続可能でよりよい世界を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成につながっていく、と三菱重工グループは考え、これからもCSR行動指針に則った環境および生物多様性の保全に取り組んでいきます。
(注)ウミガメ類には、卵が経験する温度によって雌雄が決まるという特徴があり、29~30℃を境に低温側でオス、高温側でメスとなります。
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6年間の調査で得た成果と意義
「実は、フロリダの宇宙センターでも米国航空宇宙局(NASA)の職員がアカウミガメの生態調査を行っており、日本の種子島宇宙センターでロケット打上げ事業に携わる三菱重工さんからご支援のお話をいただいたときは、強いご縁を感じました。今まで種子島で調査を行いたいと望みながらもなかなか機会がなかったので、大変ありがたいお申し出でした。おかげでこの6年間の調査によって、日本近海など北太平洋で活動する個体の全体像を把握するベースとなる数値を取ることができました。日本で産卵したアカウミガメは、北米フロリダなど世界の産卵地と違い、高い比率で死んでしまっているようなのです」-。
●日本ウミガメ協議会 松沢慶将会長
プロジェクトの主任研究者を務める日本ウミガメ協議会の松沢慶将会長は、その成果および意義についてこうまとめてくれました。
2015年度から2020年度の6年間で産卵のために上陸したアカウミガメを識別調査した個体数は、合計155体。データを積み上げてわかったのは、「種子島のアカウミガメは、日本における他の産卵地と同様、産卵のため数年後に戻ってくるのは全体の3割程度」であることと、「屋久島と種子島を行き来している個体は非常に少ない」ということ。
これらの事実は「日本で生まれ、日本で産卵したアカウミガメは、その後6~7割が何らかの原因で死んでいるのではないか」という仮説に信憑性を持たせることにもつながりました。
松沢会長は「今後、これらのデータをもとに日本やアメリカなどであらゆる解析が行われるでしょう」「まだ謎も多いアカウミガメの生態を解明することで、彼らにとって危険な状態を察知して食い止めることが可能になる。その実現のため、種子島での調査研究を続けていく意義はあります」と期待をかけています。
松沢 慶将
Yoshimasa Matsuzawa (PhD)
NPO 法人 日本ウミガメ協議会会長
専門は海洋生物環境学。京都大学農学部在学中から和歌山県の産卵地でウミガメの調査研究を始め、1998 年にウミガメの胚発生と性決定に対する温度の影響についての研究により博士号を取得。その後、フロリダ大学ウミガメ研究センター、日本ウミガメ協議会、神戸市立須磨海浜水族園などを経て、2020年3月からは、香川県宇多津町にオープンした四国水族館の初代館長に就任。
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