空とつながる

 宇宙は小さな一点から始まり、膨張し続けている。今のところその膨張は止まることはない。縮まることもなくただ無限に膨張し続けるのだ。

 私も一つの卵子でしかなかった。少しずつその細胞は細胞分裂を繰り返し増殖し、考える一個としての私へと成長した。その思考は膨張を続ける一途のように思えるが残念ながらいつか止まる日がくるのだ。

 今日も私は考えている。この体中の細胞が宇宙の膨張と同じく無限にひろがりうすめられていくことは自然の摂理であり、思考が膨張を止めることと体の細胞がやがてバラバラになり、空気になり砂になり水になる時がくることを考えている。

 そんなことを考える私の隣では、私の赤ちゃんが泣いている。彼女も同じ事を考える時がくるのか、それともその摂理を既に知っていて泣いているのか。私は彼女の背中に手を伸ばし優しくなでる。彼女の細胞が増殖していくのを感じる。彼女と宇宙は膨張し、私は止まる日を考える。私が止まる日に彼女は止まる日を考え始めるのだ。

 いつもと同じ朝の始まり。私は一日の始め、目覚めた時に瞑想を行う。考えることはいつも同じ、宇宙と自分との繋がりを確認する作業。

「私は宇宙であり、宇宙はわたしである。」

私は大きく息を吸い込み、頭の先から手足の先まで呼吸した空気が血液に乗って行き渡るのを感じる。子細に体の機能に異常がないかを確認する。滞りなく血が頭の先から手足の先まで流れるのを感じる。思考は明確になり、意識は覚醒する。体中の細胞が目覚め始めるのを感じる。私の世界が宇宙とつながることを許し、宇宙は私の世界とつながることを許す。こうして、私の一日ははじまる。

 泣いていた赤ちゃんを抱き起こし、素早く静かに腕にかかえすぐにおっぱいをやる。彼女が生まれた日に、赤ちゃんには明確な目覚めなどないことを知った。私が日々行う瞑想のような儀式を必要とせず、宇宙と彼女の世界はつながっている。人間でない生物はおおよそ、瞑想をする必要なく、生まれて死に絶えるまで宇宙と世界はつながったままだ。

 私は宇宙とのつながりを失った日を正確に思い出す事ができる。13年前のその日、私は恋に落ちた。恋に落ちた私は、落ちた深く暗い穴の底の洞窟の中で、自分が宇宙とではなく、その人とつながりたいと感じていることを知ったのだ。

 彼は、私の母の友人の子供で、初めて会った日に私のことを好きだと言ってくれた。母と友人は仲がよくいつも遊ぶ時は互いの子を連れてランチやディナーの席で食事と会話を楽しみ、彼と私はそのまわりで一緒にはしゃいで遊んだのだった。

 今私がおっぱいをあげている赤ちゃんは私と彼の子である。私は宇宙とつながることを毎朝の習慣にしているが、子供が産まれるその日までは、彼とつながっているだけでよかった。彼女が生まれて私は、彼とつながることを望まなくなったのかもしれない。私は彼女がお腹にいた時は、彼女と彼と両方につながっていたが、彼女が私から出た今となっては、彼女とも彼ともつながっていない。誰ともつながっていない。毎朝瞑想し私の世界と宇宙がつながり、細胞が膨張を止める日を思う。

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