「夢」か「安定」か? 〜超就職氷河期に二度内定を捨てた話し PART8〜

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案の定、午後のグループディスカッションでは富田さんと同じ班にはなれなかったが、もっと意外な展開が待っていた。


割り当てられた席に移動すると、なんと一緒の班に就活支援センターでも同じ班だった奥村くんがいたのだ!


「え〜!!」というようなリアクションをすると、向こうも同じく「え〜!!!」みたいな顔をしていた。たぶん他の人からすればちょっと怪しく写ったかもしれない…


「あれ?石本さんもこのインターンシップに参加してたんですね!」と奥村くんは驚きながら言った。


「僕もまさかここで知っている人に会えるなんて思わなかったんでビックリしましたよ!」


まさか奥村くんが同じインターンに参加して、しかも同じグループになるなんて夢にも思ってなかったので僕は嬉しかった。まったく知らない人ばかりの中で知り合いに会うと、それは昔の旧友に会う感覚に似ていた。


そう、それは言うならばたった一人でブラジルに行き、そこで幼稚園から一緒の友達に会うような感覚だ!(実際そんなことは体験したこと無いのでわかりませんが…)


周りのメンバーはきょとんとした感じで僕らを見ていた。基本一人で行動する就活で、そんなに知っている人に会うことは無いから珍しいのだ。


奥村くんと同じ班になれたことでかなりリラックスしてディスカッションを始めることができたが…やっぱりあの時間がくると僕の中で天使と悪魔が戦いだす。


50分のディスカッションが始まり、メンバーみんなの自己紹介が終わったあと少しの沈黙があった。


天使「さあ石本!今いくんだ!この前発表できたなら、今日はリーダーにだって慣れるはずだ!」

悪魔「な〜にを調子にのったこと言ってやがる。お前にはまだリーダーは早過ぎる!恥ずかしい醜態をさらしたく無いなら大人しくしておくんだな。」


「とりあえずお前らが大人しくしろ。」と僕は言いたかったが、勝手に心の中でわめき散らす天使と悪魔はどうすることもできなかった。


僕は奥村くんのほうをチラリと見た。彼も何か考えているようで、下を向きながらみけんにシワを寄せていた。


前回のディスカッションで富田さんの進め方を学んだ。最初に問題点を出し合って、それについての解決策を話し合う。今回のディスカッションの内容も前回とほとんど同じだった。


「ここでリーダーをやっておけば、今後の就活も少しは楽になるだろうか…」


僕は悩んでいた。果たして自分が富田さんのようにうまく司会進行をしながら発表できることができるだろうか?と。


心拍数が上がる。そして悩む・・・


少しの沈黙が続いたあと、僕は勇気を振り絞って言った。


「・・・なら僕が司会進行と発表をするので、あともう一人、一緒に発表してくれる人はいませんか?」


そのセリフは完全に富田さんのパクリだったが、僕は見よう見まねで同じことを話した。その言葉を聞いて沈黙が終わったので、グループのみんなは安堵していた。奥村くんだけがきょとんとした顔で僕を見つめていた。


「なら私が一緒に発表します!」と僕の隣に座っていた女の子が言ってくれたので、とりあえず発表する人は決まった。


「ありがとうございます!ならタイムキーパーと書記をしてくれる人はいませんか?」僕がそう聞くと、前に座っていた男性がタイムキーパーを、そして嬉しいことに奥村くんが書記をやってくれることになった。


「・・・とりあえず役回りが決まったけど、本番はここからだ。」僕はドキドキしながら司会を続けていた。おそらく二度三度は話す時に噛んだだろう。しかしそんなことを気にしている余裕は無かった。


救いだったのは前回のディスカッションの時に富田さんの司会っぷりを見ていたことである。そのおかげである程度の時間決めも出来たし、どうやって進めていいかはわかっていた。


もしこれがわからなければ、おそらく僕は「形だけリーダー」で撃沈していたかもしれない…


とりあえず僕は「最初に問題点を出し合いましょう!」と言ってからは順に「解決策→カテゴリーに分ける」という流れを進行した。書記の奥村くんも遅れをとるまい!と必死になってまとめてくれた。


終了5分くらい前になんとか形だけはまとまって、一度だけ発表の練習をすることができた。初のリーダーはどうだったかって?まったく頭に入ってきませんよ。笑


緊張のあまり途中何を話しているのか自分でもわからなかったが、何とか僕らの班も発表できる形まではもっていけた。


「なんで富田さんはあんな余裕しゃくしゃくやったんや!」僕は心の中でぜーぜー言いながら考えていた。場数の違いかそれとも才能か…自分が富田さんのように発表できる日がまだずっと先のような気がしていた。


「終了!」という合図ともにディスカッションは終わり、各グループによる発表の時間がきた。今回僕らは「C」チーム、司会の人がよっぽど意地悪をしない限り僕らの発表は3番目である。


やはり今回もAグループから順の発表で、前に立った就活生たちがたどたどしく発表していた。きれいにまとまっている班もあれば、途中つまづいてしまった班もあったようだ。


そうこうしている間にCグループの番になり、僕と女の子は前に立った。会場にいる人たちの顔を見ながら、「何回立とうとこの場所に慣れることは無いな」と僕は思っていた。


ふと目が合った中村さんが僕のことを覚えててくれたのか、「頑張れ!」と小声で言ってくれたので僕は気合いを入れて話し始めた。


「それではCグループの発表を行いたと思います。」


前回に比べると少し早めに僕らの発表は終わったが、まずまずの出来映えだった。恐怖の質問タイムには意外にも就活生から質問があり、一緒に発表してくれた女の子が答えてくれた。


みんなが拍手をしてくれる中、僕は席に戻って「よう頑張った!!」と脱力しながら思っていた。「毎回毎回こんなにエネルギーを費やすとなると、これはもう大変やな・・・」他のグループの発表を見ながらそんなことを考えていた。


どうやら富田さんはFグループにいたようで、発表のときはやっぱり前に立っていた。相変わらずスラスラと発表していたので、他の就活生とは違った雰囲気があり羨ましかった。


そして全グループの発表が終わり、最後はあの「懇親会」の時間がやってきて、僕はまた楽しい時間を過ごすことができた。たまたま懇親会の席では富田さんと同じ席に慣れたので、ディスカッションや就活について話すことができた。


初のリーダー役も経験できて、当分はこんな大舞台は無いだろうと僕は安堵・・・いや、思っていたのだが、まさかこれ以上の舞台がすぐに来るなんてその時は夢にも思わなかった。

(つづく)


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