「夢」か「安定」か? 〜超就職氷河期に二度内定を捨てた話し PART10〜

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前半はドタバタしたが、ここからうまくまとめることが出来れば僕らの株も上がるかもしれない!などとアホなことを考えた矢先、小林先生から思いも寄らぬ核ミサイルが発射された。

「ちょっと良いですか?君らのグループがここのクラスの代表に選ばれたんです。つまりそれは君らの発表の仕方をみんなが認めてくれたということ。

なのに何故わざわざ時系列とか他の形に崩して発表する必要があるんですか?

あなたたちの班が認められたなら、そのスタイルで発表したらええんやないですか?」

振り出しに戻ったーーー!!!

人生ゲームで言うと、あと少しでお金も家庭も手にいれてゴールできそうな瞬間にすべてが「無」になった感じである。

さすがの小林先生からのレーザービームに、一瞬に教室中が静まりかえった。

そしてそのレーザービームをもろに受けた僕らは完全にダウンしてしまった。奥村くんの文字を書く手が止まり、大塚さんも下を向いて悩んでいた。

僕だけは小林先生の顔を見ながら「じゃあどうすれば良いんですか?」と無言のSOSを流していたが、小林先生の雰囲気から「それは自分らで考えろ。」と同じく無言の返事が届いたような気がした。

少しの沈黙が続いた後、最初に意見を言ってくれた就活生が口を開いた。

「確かに、発表の仕方をわざわざ変える必要もないと思います。」

あんたやーーー!!!

あんたが最初に時系列に並べて発表したほうがええんやと言ったんやないか!それを何を今更寝返っとるんやーーー!

と僕は声を大にして言いたかったが、そんなこともできることもなく教室からはさっきまでの活気が無くなった。

痺れを切らした奥村くんが、「なら小林先生の言ってくれた通りもう一度最初の形に戻して話し合いましょう。」と言ってくれた。

その言葉を聞いて僕はホワイトボードを白紙に戻し、その真ん中に大きく3つのポイントだけ書いた。そう、原点に戻ったのである。

しかしここからが大変だった。やっとこさ教室のみんなも意見を出してくれて活気が生まれたところ、まさかの小林先生の言葉で生気は無くなってしまった。

「一体全体、こっからどうしたらええんや…」どれだけ悩んでいても一向に答えが出ない。いっそこの場から帰ってやろうかと思ったがそんなことをする度胸もない。

奥村くんも大塚さんも下を向いてはずっと何かを考えて様子だった。その時である。一人の就活生が手を挙げて「もう一度みんなで1から考えてみましょう!」と励ましの言葉をくれたのだ。

これには素直に嬉しかった。まったく答えが出ない状況の中で、「もはやこれで終わりか…」と思っていた中での救いの言葉。

おそらくこの時の僕らはよっぽど悩んだ姿をしていたのだろう。そしてその姿を見ていた他の就活生たちがどんどん力を貸してくれたのである。

「最初のポイントにはこういうのも足したら良いんじゃないですか??」「インターンシップの体験談を話すとかも良いと思います!」などなど。

さっきは否定的な意見を言っていた学生も協力してくれるようになったのである。

そこで僕らは気を取り戻してもう一度初めからスタートすることにした。役割分担は同じく、新たに再出発したのだった。

不思議なことに、同じ就活生である僕らが授業を進めていたからか、少しずつ「一体感」が生まれてくるようになった。

もちろん手厳しいことを言ってくる人もいたが、それでも最初に比べると明らかに協力的な人たちが増えていた。そのおかげで完全に打ち砕かれそうになった僕の心もなんとか持ちこたえることができたのである。

「これならいけるかもしれない!」と僕は思った。さっきは完全に挫折しそうになったものの、これだけみんなが協力的になって意見を言ってくれるのなら、もっと良い形で発表できそうな気がしたのだ。

あーでもない、こーでもないと言いながら僕らはクラス全体でのディスカッションを進めた。

基本の形は崩さず、どう僕らの発表の仕方をレベルアップしていくかという、少しハードルの上がった話し合いだったのでなかなかスムーズには進まない。

それでも僕らは少しずつ少しずつ言葉を足して、自分たちの発表がもっと良くなるよう必死になって考えていた。そんな状況の中で小林先生だけが何も話さず、じっと僕らのディスカッションを見ていた。

しかし、小林先生からのレーザービーム的な質問が強過ぎたのか、思うようにみんなも発言できなくなっていた。「あぁ、ほんとはこんなとこが言いたいんだろうな…」と思いながら、僕はみんなからの意見を聞いていた。

僕ら3人含めて誰もが小林先生の顔色を伺いながら自分の意見を話そうとしていたのである。

そりゃ小林先生は就活の道を知る超ベテラン。そんな先生から「なんかこのディスカッションおかしくないか?」みたいな質問をされると、誰もが「イエス!そうです!」としか答えれない。

思うようにペンを進めることができないためか、奥村くんはずっとホワイトボードを見つめながら黙っていた。大塚さんは何とか場の空気を上げるために、みんなからの意見に対して必死になって応えてくれていた。

「なかなからちがあかない…なんとかしてこの状況を脱却せねば。」いつの間にか僕は汗をかきながら喋っていた。たかだが練習のためのディスカッションやら模擬研修でこんなにテンパっていたらシャレにならない。

「俺、これからの就活ほんま大丈夫か???」

考えたくもない言葉が司会をしている中でも頭をかすめる。それでも僕は思いつくすべての質問をみんなに投げかけ続けた。

そして大塚さんの力もあってか少しずつ場に活気が戻り始めて、何人かの生徒が積極的に意見を話してくれるようになった。それがきっかけで他の生徒も意見を話してくれたり、少しずつではあったが笑顔も戻ってきた。

「よしきた!この調子なら大丈夫や。なんとかして軌道に乗せることができれば絶対良い発表の形ができるな!」とわずかながら希望が見えてきた。

とりあえず流れを切らさないために僕は身振り手振りも加えながら話していた。その姿を見て熱が入ったのか、書記の奥村くんも気合いを入れて話し始めてくれたが、思いっきり噛んでしまい会場の笑いを総取りしたのである。

笑いが生まれればこっちのもの!人間、笑顔になれば心のゆとりが生まれる。その隙に一気にモチベーションを上げてみんなの活気を高めようと思った時だった。

小林先生がすっと立ち上がり大声で言ったのである。

「タイムアーップ!!」

なんやとーーーーーーー!!!

僕は心の中で叫びまくった。まさか、今この瞬間で終了だと!?切りが悪過ぎる。これはあまりにも切りが悪いぞ!!

あまりの唐突な強制終了に他の就活生からも「え!」という驚きの声が上がった。

今までの人生で何度か切りが悪い場面はあったが、これほど不完全燃焼な終わり方は経験したことが無かった。

というよりマズい!これはマズい!!

何故ならメインである午後の部の発表で、まったくもって発表できる形になっていないからだ。

これじゃあまるで料理番組で料理が間に合わず、とりあえず材料だけ紹介しとけ!みたいなブーイング100%な感じになってしまう!

それでも小林先生はそのまま前に立つと「3人ともご苦労さん、席に戻って良し!」と言って僕らを返した。

その時僕は直感したのである。小林先生が優しそうな笑顔で僕を見た時にすべてを理解したのだ。

「なんだ小林先生!最後は僕らの発表をまとめてくれるつもりだったのか!それであえてディスカッション中は何も言わず、僕らの進行っぷりを見てたんやな!」

もともと場数が少ない就活生が就活について研修なり発表なりしたところでたいしたものは生まれない。それでも力を鍛えるには極限状態まで追い込むしかない。

「泳げるようになりたいなら、とりあえず水につっこめ!」

小林先生ならやりかねない方法である。

僕はそのことを理解すると安堵したのかフラフラと席に戻って腰をおろした。最初からそうなるなら死ぬ思いで司会をすることも無かったなと思った。

「やっと終わった…」と大きな開放感を感じると同時に小林先生がどうまとめてくれるのかにすごく興味が沸いた。

「きっと小林先生なら予想以上の形でまとめてくれるに違いない!」そう思いながら小林先生のほうを見た。そしてその視線に気づいたのか、小林先生が話し始めた。

「え〜みなさん、ディスカッションお疲れさまでした。3人もよう頑張ったな!とりあえず午前の部はこれで終了やから、午後の発表を楽しみにしてるわ!それじゃあお昼休憩どうぞ!」

「!?」

なにーーーーーーーー!!!!

ほんまに終わるんかいな!!!!

確かに小林先生は予想以上の形で終わらしてくれたが、僕にとっては最悪のシナリオとなってしまった。

「あの全然まとまっていない形で発表しろというんですか!?それじゃあまるで公開処刑・・・話す言葉も順番も決まっていない状況でいったい何を発表したらいいんですか!?」

安易に小林先生がまとめてくれると勝手に予想してた分、僕のダメージは衝撃的だった。そして隣を見ると奥村くんも衝撃を受けた顔をしたまま固まっていた。おそらく前に座っている大塚さんも唖然としているに違いない。

敵は200人の就活生と企業の人たち。そんな状況の中で刀も盾も忘れてしまった僕たちが一体全体どうやって戦えば良いのか…

昼飯時のランチタイムは僕にとって悪夢の1時間となったのである…

(つづく)

ブログもやっているので良かったらどうぞ☆

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