『河 岸(カシ)』父親と暮らした記憶がない、半身の私が、人生の旅に出たストーリー

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と寂しさをお母さんはこぼしていたが・・・。


私達兄妹は、姉と同じマンションというだけかも知れないが・・・。

その選択しか考えつかなかった。

お母さんも、実家の荷物を少しずつ片づけ始め〝まんざらでもない〟という気持ちだと解釈した。


 あまりにも、話しが、とんとん拍子に進む中、お姉ちゃんから電話があった。

「引越しする事が、お母さんにとって、幸せか、幸せじゃないか、と考えると、私には、わからない。本当にこれでいいのかなぁー・・・・・もしかしたら、私達の選択は間違えているのかなぁー・・・」

「私にもわからない・・・・。でも、こういう話って、ダメな時はスムーズに事が運ばないのではないのかなぁー?・・・問題が出てきたり、想いと違う風になったり、私にもわからないけど、こんなにスムーズに事が進むという事は、流れに身を任せて、いいんじゃないのかなぁー・・・・」

と私は答えた。

 実際、私だってわからなかったし、不安であった。

よい方向に向かう事を願うことしかできなかった。

 後に、お姉ちゃんから聞いた話だが、私のこの言葉に〝気が楽になった〟と言ってくれた。


 話があってから、数か月で引越しの段取りまで話しが進んだ。


もう少しで、引越しという時になり、私は、お姉ちゃん言ってみた。

「お父さんに言った方が、いいんじゃない? 何なら私が上手に言ってみるけど・・・」

「反対されるのわかっているし、ぶち壊されたくない・・・もし、言うのであれば、引越しも終わり、落ち着いてから言った方がいい。ここまできて ぶち壊されたら、その気になってきた、お母さんを、また傷つけるには嫌だ・・」

と言うお姉ちゃんの考えだった。

私は、お兄ちゃんにも同じ質問をぶつけてみた。

「言う必要はない、お父さんには関係ない」と答えたが

「それでも、真理が言うのであれば反対しない」と付け加えた。

 私自身は、反対される事をわかっていたが、先に言っておきたかった。

お父さんが〝実家を手放してはダメだ”と言う思いも聞いてみたかったし、私達が、なぜ手放そうとしているかも話しておきたかった。


一番には、後で、お父さんに黙って行動した事を、お父さんが知った時の方が怖かったが・・・。


ここまで来て、ぶち壊されるのも心配であった。

結局、姉の意見のように、引越しをして落ち着いてから、お父さんに話す機会を作ろうと思った。



 引越しには、兄も数週間の休みを取り、中国から駆けつけた。

 ほとんど必要な物はないが、押し入れから、兄弟3人の小さい時に書いた、絵や作文が出てきた。

住んでいた頃の思い出に浸りながら、家を流れる風、匂い、音、部屋をめぐる時の体にしみついた歩幅。

この空間が無くなる寂しさはあるが・・・。

お母さんの新たな生活で、いつまでも元気でいられますようにと・・・と気持ちは前向きであった。

 引越しの当日は、引越し業者に、家の不要品回収業者が入り乱れ、マンションと実家の売買契約が同じ日に行われた。

次の日には、実家も解体され、更地になると聞いたがが、見るには抵抗があった。

 実家を最後に出る時に、お姉ちゃんが壁に

『ありがとう』とマジックで書いた。

たった一言に、すべての想いが蘇り、胸にしみて痛かった。



 引越しも終わり、一ヶ月程してから、私の携帯に非通知の電話がなった。

非通知は、公衆電話からなのであろうか?

お父さんの電話だと直感した。

「お父さんは、お前達と縁を切る!」

「お前達には財産をやらん!」

「なんで、お父さんの言う事が聞けん!」

私が言葉を返す間もなく、一方的に切られてしまった。

お父さんは怒っていたが、どこか寂しそうな声だった・・・。

私は、姉と兄に連絡した。

お姉ちゃんは

「想いのほか早く気がつかれたね。真理に嫌な想いさせちゃったね」

と私の気持ちを気遣ってくれた。

お兄ちゃんは

「まぁ、しょうがない。お前も財産なんて当てにするなよ」と・・・。

姉や兄に話す時は、私も強がり、あっけらかんと

「全然 気にしてないから大丈夫だよー」

と話した。

電話を切った後、涙で溢れた。


なんで、家を売ったのか理由を聞かないの?

なんで、財産なんて、考えた事もないのに、そんな事言うの?

なんで、私達の気持ちをわかってくれないの?


〝縁って何よ〟

連絡先もわからない。

何処に住んでいるのかもわからない。

縁を切るって意味がわからない。

元々、縁があるのか?無いのか? すらわからない・・・。


ーもう逢えない


 私は、ただ、たまに、お父さんの声が聞きたかっただけなのに・・・。

胸から込み上げて、涙がしたたれ落ちる。

〝声には出ない〟

〝出さない〟

いつだってそう、一生懸命、唇を噛み締める。

気持ちを押し込めた胸が痛い。

胸にしまおうとするから涙がしたたれ落ちるだけ・・・。



 時は、足早に経つが、日々の忙しい中でも、お父さんの事を考える時はあった。

(どうしているかなぁー)

(元気でいるかなぁー)

(きちんと、家を売った理由を話せばわかってくれるかなぁー)

(連絡してみようかなぁー)

と言っても、連絡先も知らない。

(お父さんの行きつけの雀荘に連絡して、来てないかきいてみようかなぁー)

結局、思うだけで、諦めるしかなかった。

ー考えては諦め、繰り返した。




 息子が突然に・・・。

「おじいちゃんに逢った事がない」

と言った。

「お寿司屋さんで、逢ったの覚えていない? 小さかったからなぁー」

(たしか息子に逢わせたのは、4、5年前になるかなぁー?)

「覚えてる、覚えてるよー」

と息子は言い直した。

不意に言われ、なぜ急に「おじいちゃんに逢った事がない」なんて言い出したのか?

不思議に思ったが、それ以上の話しはしなかった。

(どうしているかなぁー)

いつものように考えては諦めた。




ーそれから一ヶ月半頃過ぎた。

11月11日


 仕事からいつものように帰宅をし、夜、姉からメールが届いた。

〝連絡がほしい〟との事だった。

お母さんの事か?それとも、今は、進学の為に、お母さんと一緒に暮らして居る娘の事か?

心配になり電話を掛けてみた。

「お父さん、死んだんだってー」

「はぁー?・・・・・・」

「なんでわかったの?」

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