失恋を理由に15歳で留学を決意した話 (3)

「鎌田さんみたいな人のことを、恋愛中毒って言うんだろうね」

 クラスで一番頭がいいと言う噂の彼は言った。

「恋愛…中毒?」
「恋愛してなきゃ何もかもが始まらないんだ」
「そうかなあ」
「僕は羨ましいけどね。どういうきっかけにせよ、自分を奮起させてくれる何かがあるっていうのは。僕なんかはこうやって淡々と課題をこなして、好きな人のことは黙って見ているだけだもの」
「好きな人いるの?」
「まあね。でも僕には手の届かない相手」
「うちのクラスの人?」
「そのあたりのことは勘弁してよ。まあ、鎌田さんの割と近くにいる人だってことは言っておく」
「ふーん」

セーターを着ていた記憶がある。
だから秋もかなり深まって来た頃だと思う。
私は部活をさぼったり中抜けしたりしては、教室に残って勉強するI君と話し込むようになっていた。

「つまるところ、一線を越えなきゃ本当の恋人同士にはなれないと思うよ」
「え…I君もう越えちゃったの?」
「越えてないよ!ただそう思うだけ。でも越えないうちからそれだけ相手を想える鎌田さんはすごい」
「思い込みが激しいって言われた」
「まあ、そういうとこもあるかもね。でも悪くはないよ」
「元気出た、今の言葉。ありがとう」
「ならよかった。信じる通り突き進めばいいさ。色んなことを言う人間、例えば親とかいるけど、自分の人生は自分のものだからさ。いいと思った方向に進むのが一番いいんだよ。俺は医者になんかなりたくない」
「…そうなの?こないだ医学部希望者の面談にも出てたのに?」
「親の希望。どうやってねじ伏せようか悩んでる。鎌田さんみたいなパワーが欲しい」
「んー、あげられるものだったらいいんだけどね。私も自分で自分を持て余してるんだ」
「…いいよ、鎌田さんは、そのままで。僕は魅力的だと思う。その人には、理解されなかったかも知れないけど」

振られた日のことを思い出し、涙ぐんでしまった。
その顔を見られまいとして窓の外へ目を向けると、東京タワーとレインボーブリッジが目に入った。
私とI君そして素晴らしき友人たちの通っていた学校は、高輪と呼ばれる一角にあった。

「景色は最高だよね、この学校。100万ドル…一億円は言いすぎか。100万円の価値は確実にあるよ。これだけでも、学費のモトは取れたかな」
「そうだね」
「でも鎌田さんはこれから、もっと素晴らしい景色が見られるんだよ」
「うん」
「負い目なんか感じることないって。どんな理由であっても、先生達を突き動かすものがあったんでしょ。どれほどの御託を並べたって、ダメな奴はダメだったんだから」
「…失恋したからとは言ってないよ?面接では」
「あはは、そっか。でも鎌田さんにしか言えないことを言ったのは事実でしょ」
「たぶん、ね」
「めちゃくちゃにやってくればいいよ。俺も人のことばっかりは言えないんだけどさ」

出発の直前まで、I君には随分と相談に乗ってもらった。
今はどうしているのか分からないけれど、本当に感謝している。
こういう人に支えられていることが分かっただけでも、無謀な挑戦をした価値はあったと思う。
何だか随分いい加減な文章になってしまったけれど、覚えているうちに備忘録として。

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