第7話 アルケミスト【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】

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デジャブのようなこの光景、この1ヶ月でもう3度目だった。



卒業を1ヶ月に控えたそのとき、私の人生に少し不思議な偶然が起こっていた。

詳しく言うと、” ワクワクすることしかしない ”と就職をけったその日からだ。



その偶然は、1ヶ月の間に、同じ本を、おなじようなセリフで薦められる、ということ。

「人生が変わった本がある。」そんな言葉と、

本人の人生の転機のエピソードが必ずついてくるのだ。






ここは学校の近くの恵比寿の居酒屋。

今日は同じクラスのあべちゃんとフラッと飲みに来ていた。



同郷の九州出身のあべちゃんは、私より少し年上。

スッピンの素肌に黒髪のショートカットは、

芯があって柔らかい彼女に、とても似合っている。



そういえば就職をけったことも、すぐあべちゃんに話しをしたなあ。

そんな彼女は、大手のアパレルの本社の技術職で就職が決まっていた。



あべちゃん
私な、本当に”服作り”が学びたくて、決心してこの学校に入ったんよ。



私たちの通うクラスは、2年制なのもあり、

他の学校に通っていた人や就職していた人がまた技術を学ぶところでもあった。



だからクラスの平均年齢は高く、みんな前職を辞めて来ていたり、

他の学校から入り直したり、本気の人が多かったのだ。



授業も3年分を2年にまとめるくらいだ。

授業も課題も相当の量。途中で辞める人も少なくなかった。




あべちゃん
私その頃関西で働いてて。

仕事を辞めて、この歳でまた学校に行くって決めるの、すごい勇気だった。

そしたら仕事を辞める時、職場の人が、
「これ、あなたの本だから」
って急にくれた本があって。



あべちゃん
関西から東京行きの夜行バスでずーっと読んでたの。

荷物なんてすごい少なくてさ、
リュックひとつとその本くらい。

それだけで東京に来たんだよ。ビックリだよね。




居酒屋の薄暗い照明と重なって、そのときの情景がありありと思い浮かぶ。

その時あべちゃんは、不安だけど、どこかワクワクしてたんだろうか。



関西からの夜行バスの窓からは、見知らぬ景色が過ぎていく。

リュックひとつとたった一冊の本、狭いバスの椅子にもたれながら、



不安なのかワクワクなのか分からないまま、ただ本を読み進めていく。



なんだか今の自分と重なるところがあった。




maho
なんて本なの??



あべちゃん
そうそう、マホ知ってるかな?


アルケミスト って本なんやけど!



  ーアルケミスト




そう、やっぱり、この本だ!

その本は、私がこの1ヶ月さんざん勧められてきた本だった。もうこれで3人目だ。




あべちゃん
読んでみて!小説ですごく読みやすいから。
何かまほにあってる気がする。



繋がるサイン




勘定を済ませ居酒屋を出ると、もう空は薄暗く星もぽつぽつと出ていた。

あべちゃんと分かれ、家まで一人で歩く。



この1ヶ月に起こっている不思議な偶然は何なんだろう?




1ヶ月に同じ本を3度も薦められる。

しかも、そこで必ず語られる彼女たちの人生の転機のエピソードが

ますます「ただの偶然」ではない奇妙さを生んでいた。



忘れないようにメモしようと、携帯のメモ機能を開く。

すると1年前のメモが残っているのに気がついた。



あれ?なんだったっけ?



開いてみると


そこには”アルケミスト”と”由紀夫”の文字。



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