46人生の岐路 / 当たり前が当たり前ではなくなったとき

前編: 45人生の岐路 / 海をナメすぎた結果
後編: 47人生の岐路 / 島から、那覇へ


私は、泣いた。

頬をつたる涙が止まらない。


あの日。

あのとき。

事故が起きていなかったら…。


民宿での仕事が、残り1週間となった、ある日。

私は、大工の仕事にかり出された。と言っても、助手みたいな感じ。

木材をおさえたり、ボンドをつけたり。

大工の経験がある“おじい”2人が指示をし、手伝っていました。

ただ、この2人…、島の言葉を使っていて、何を言っているのか分からない。

会話にも付いて行けず、長時間の作業のため、民宿の仕事の中で一番嫌いだった。

作業を見ていて、突っ立っているだけのときもあった。

もうね、長袖長ズボンでもそこら中、蚊に刺され、ボコボコですよ。

なんで、私が…と思う日々ばかりでしたよ。


しかし。

同じ時間を費やすなら、楽しもう。

と、思い始め、自分から仕事を貰うようになりました。

“おじい”が、木材に数カ所、釘を打つ。初めの1つだけ、“おじい”がやり、残りは私がやる。

そんな提案をしたら、快く、仕事を任せてもらえました。

「釘を曲げるなよ」

プレッシャーでした。

でも、突っ立っている何十倍も、充実感を味わう事が出来たのです。


「みきちゃん、今日もお願いね」と頼まれたとき。

嫌な顔をせず、任せてと胸を張れるほど、大工の仕事が楽しいと思えたんだけど。

ある日を境に大工仕事はなくなってしまいました。


その、ある日。

“おじい”が、屋根から転落してしまったのです。

※自分は、現場にはいなかったので、詳しい状況は控えさせていただきます。


事故があったとき。

私は、一緒の敷地内にいました。

ガタッと言った、大きな音の少し後。

“おじい”と作業をしていた子が走ってきて、「“おじい”が屋根から…」と伝えてくれ。


事故現場に行ったのに、私は何故か、冷静で…。

ポケットに入っている携帯電話を取り出し、「119」を呼びたいけど、ここは島。電話をしたら、どこに繋がるのだろうか。役場の電話番号は控えていないし。と、いろいろと考えてしまいました。

結局、民宿のベテランスタッフに連絡をし、待つことにしました。


現場に残されたのは、私と、もう一人の子。

そして、倒れている“おじい”


“おじい”を見て、あれこれ考えました。

何をしたら良いのだろうか、と。


意識はない。でも、心臓はかすかに動いている。

心臓マッサージをした方が良いのだろうか。

でも、下手に心臓マッサージをしたら……。


待っている時間が長かった。長く感じただけかもしれない。


救急車が到着したのに、医者が来ない。

普通、救急車に一緒に乗ってこないの?

普通だと思っていた事が、この島では、普通ではなかったみたいです。


医者の到着を待って…、と、私たちはただただ見守るしか出来なかったです。


その後は。

私たちは、現場検証があり、“おじい”は島から那覇の病院に運ばれたそうです。


冷静を保っていたのは嘘。

涙をグッと堪えていた。

今は泣いちゃダメ。私は、現場にいなかったのだから。そう、自分に言い聞かせていた。


事故があった夜。

そして、翌日から、私たちスタッフの顔から笑顔が消えた。

上手く笑えない。と言うより、笑っちゃいけない気がした。

いつもと同じ朝が来て、夜が来るのに、“おじい”がいない。

民宿にはお客様が来る。おもてなしをする時だけ、精一杯の笑顔を作った。

夜になると、決まって海に行った。一人になりたい。

那覇の“おじい”に向かって祈りを捧げた。


“おじい”は、数日の命と言われたものの、10日ほど生き続けた。

私が帰った後、亡くなったそうだ。


最後の最後まで、“おじい”は“おじい”だった。

2週間ほどしか一緒にいられなかったけど、“おじい”から学ぶ事は多かった。

こんなことをやりたい。有言実行する“おじい”だった。


明日もまた、「みき、行くぜ」と声を掛けてもらえると思ったのに…。

「みき、頑張っているな」と、頭をぽんぽんとしてもらえると思ったのに…。

「秋になったら、また来るよな」と、また声を掛けられると思ったのに…。


当たり前のことは、当たり前に過ぎていくわけではなかったようです。

社長(“おじい”のこと)にまた会いたい。

会って、お礼を言いたい。

海酔いして、船の上で、社長と話をしたこと、一生、忘れません。


笑ったり、泣いたり。

様々な経験をしたけど、行ってよかった。

立派な姿を見せに、また座間味に来てね。

女将さんから言われた言葉です。また、行かせていただきます。


改めて、ありがとうございました。

続きのストーリーはこちら!

47人生の岐路 / 島から、那覇へ

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