この上なくゆっくり歩いた日
今日は、何もやることがなかった。
やるべきことはいつでもたくさんある。
僕はまだノーベル賞もアカデミー賞ももらっていない。

外は太陽が照らしていた。
僕は寝床を出て、ゆっくりとその辺を歩くことにした。
これ以上は止まってしまうようなくらいの歩幅でゆっくりと。
迷子の子供が、おろおろと歩くように。
すぐに心の中で声がした。
「もっと、ちゃっちゃと歩きなさい」
「ちゃっちゃ」とは母の口癖だ。
小さいころはよく言われた。
そういえば、この前この口癖のことを母に聞いたら、
「そんなこともいってたけね」
といわれた。
記憶は平等ではない。
外は意外に暑く、汗は背中を伝ったが、
僕は不思議なほど気分が良かった。
なるほど、ゆっくり歩くっていいもんだ。
歩くこと自体が楽しいなんて、初めてかもしれない。
目的地もない。
にらみ顔の母親もいない。

外をみると、休日というのに、みんなは忙しそうだった。
車はハザードを手際よく点滅し、買い物袋を持った大人は足早に通り過ぎていく。
僕はたぶん一般の休日の過ごし方もしていないのだ。
「ゆっくり歩く普通の歩道」旅というのは、一般的に魅力的なツアーコースとはいえない。
ご老人の方は、私と同じぐらいの速さで歩いていた。
ふっと、私は、老人の方々は、体力の衰えもあるかもしれないが、魅力的な歩き方を長年の経験から心得ているのかもしれないと思った。
忙しい次の週はまだ続いていく。
やるべきことは山積みだ。
僕はまだ人間国宝にもベストジーニストにもなっていない
(そういえば、いつから新しいジーンズを買ってなかったっけ?)。
でも、ゆっくり歩く。
「ゆっくり歩く普通の歩道」ツアーの、僕はまだ初心者だ。
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