採点バイトの思い出

次話: 採点バイトの思い出②

大学を卒業して間もない頃、小中学生のテストの採点バイトをしていたことがあります。

100人が一堂に会して採点に励む姿は壮観です。学生もいますが、ご婦人がほとんどで、ぽつぽつ中年男性の姿も見られます。背景を色々想像してしまいますが、確かなのは中年の男性たちはおしなべて真面目だということです。服装自由という規定なのですが、スーツで出勤してくる方もいらっしゃいます。作業なのでスーツは明らかに向かないのですが、利便性を犠牲にしてまで礼儀を尽くす姿勢に胸を打たれました。

また、初日のオリエンテーションで会社の顧問の先生(おそらく退職された中学校の先生)が語った

顧問の先生
トイレの使い方が綺麗な人は採点も正確

という言葉を体現したような素晴らしいトイレマナーです。手を洗ったあとは手拭きペーパーで綺麗に洗面台を拭いて帰ります。

ただ、バイトの人しかトイレにいなかった時はそういったことは無く、社員さんがいる時だけ善行に及びます。何ともニクい人です。

真面目さではご婦人方も負けていません。エプロンとマイ指サックを持ち込み、休憩時間にはどこのメーカーの指サックが使いやすいか熱く議論しています。休憩時間にメールチェックをしようなどと考えていた僕は大変浅はかだったと思い知らされました。

またバイトのリーダーさんが業務の説明をしている最中に真面目に眠気覚ましの酸っぱいアメを配る方もいらっしゃいます。一ヶ月で22万枚のテストを採点しなければならないわけで、業務の説明をウトウトして聞き逃したら大変です。気配りがきいているなと思っていたら、説明しているリーダーさんにまで配りだし、眠気も一気に覚めました。

小中学生の問題だと思うと甘く見てしまいがちですが、真面目な方はここでも全力投球です。中学2年生の英語の採点のある方は自身の英国留学体験まで披露し、「この答案、○○○○教授(英国)なら何て言うかな」と検討しています。やはり本場の人に聞かなければ分からないことは多いのだと思います。社員さんが「ああ、正答に書いてる以外の答えはサクサク9(=不正解)つけていいッスよ」と言った時の「あなたは英語を何だと思ってるんだ!」という表情が忘れられません。

と採点する側のことばかり書いてきましたが、テストを受けるほうもこれで学力を計られるわけですから当然真剣です。僕は小学校6年生の国語を担当しているのですが、「出掛ける時にあなたはバスを使うのと、歩くのどちらが好きですか」という作文の問題で会心の解答を見つけました。

「なぜそんなことを問う?」

確かに。思考停止が蔓延する世の中で、物事の根本に疑いを持つ姿勢、とても大切だと思います。

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