あなたを選ぶ新人作家のストーリー

5 / 6 ページ


「えっと――」
 


口籠る。流石に半端な緊張ではない。
 


ギュッと唇を噛んで、スカートの裾を握り締めた。



(だ、大丈夫……真剣に思われる事なんてないんだから。)
 


うつむき加減になりながら、結菜は一つ呼吸をする。そして、チラリと茉莉花を振り返った。



 茉莉花は、早くと言う仕種……刹那、大樹の視線も茉莉花を捉えていた。
 




大樹は訝しげにして、



「藤堂、もしかして――」



「違うの。彼女は……関係ない。」



「けど――」
 


大樹が言い掛けた時、結菜はサッと前を向いた……先んじて言う。



「私、高瀬君が好き……です。」



「えっ……。」



「だから、好きです。その――」





うつむいた。


恥ずかしい……これ以上は顔を上げていられない。





大樹と話していたクラスメイトも、いきなりの告白劇に驚いた様子だったけれど、直ぐにニタニタとからかうように大樹を見始めた。大樹の返答を待っている。
 一方の大樹は困ったように言葉を探している。


そして、ようやく出た言葉は、



「えっと、藤堂。その――」



「ゴメン!やっぱり忘れて!」



 何も聞けなかった。




顔を隠した結菜は、そのまま教室を飛び出していた……。







☆   ☆
 


放課後。
 


午後の授業に出なかった結菜は保健室にいた。
 校医の吉村先生が、ベッドで泣いていた結菜の顔を覗き込んで、



「――そろそろ、大丈夫?」



「……はい。」



「もう放課後だから、今日は帰りなさい。明日の事は……後で考えれば良いから。」
 


吉村先生が優しく微笑む。
 


促されて、結菜はゆっくりと体を起こしていた……ベッドに腰掛ける。



 吉村先生を見ると、彼女はポケットからマスカットキャンディーを取り出して、



「これ、あげる。」



「これ……。」



「勇気のキャンディー……って言うと、子供だましかな。でも、これを食べて勇気を持って欲しいって言うのは本当よ。だって、一歩を踏み出せたあなたには、誰かに恋して幸せになる権利が与えられたって事だから……ね。」



 吉村先生は結菜の頭を静かに撫でた。



 結菜は子供のような顔をして、



「私、幸せになれますか?」



「えぇ。恋をした時に、一歩踏み出して告白できない人は幸せになれないかも知れないわ。でも、一歩踏み出せた人は絶対に幸せになれる。だって、誰よりも、彼の心に近付いたって事でしょ。」



「……はい。頑張ります。」



 一つ笑みを零した結菜は、一礼をして保健室を後にしていた。
 


廊下を歩く。放課後の廊下は少しだけ静か。
 


生徒の声も聞こえなくて、今の結菜にはとても似つかわしい雰囲気を醸し出していた。
 階段を小走りに駆け上がって、教室に入る






……誰もいなかった。



「私だけ取り残されちゃった。」



 呟く。でも、その方が安心できていた。





 椅子に座って、机の中を覗いた。瞬間、フッと背後に人の気配――





「――藤堂。」



「ぇ……。」
 


息を呑んで振り仰ぐ。


そして、呼吸を忘れていた……。
 

著者の島津 真一さんに人生相談を申込む

著者の島津 真一さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。