あなたを選ぶ新人作家のストーリー
「えっと――」
口籠る。流石に半端な緊張ではない。
ギュッと唇を噛んで、スカートの裾を握り締めた。
(だ、大丈夫……真剣に思われる事なんてないんだから。)
うつむき加減になりながら、結菜は一つ呼吸をする。そして、チラリと茉莉花を振り返った。
茉莉花は、早くと言う仕種……刹那、大樹の視線も茉莉花を捉えていた。
大樹は訝しげにして、
「藤堂、もしかして――」
「違うの。彼女は……関係ない。」
「けど――」
大樹が言い掛けた時、結菜はサッと前を向いた……先んじて言う。
「私、高瀬君が好き……です。」
「えっ……。」
「だから、好きです。その――」
うつむいた。
恥ずかしい……これ以上は顔を上げていられない。
大樹と話していたクラスメイトも、いきなりの告白劇に驚いた様子だったけれど、直ぐにニタニタとからかうように大樹を見始めた。大樹の返答を待っている。
一方の大樹は困ったように言葉を探している。
そして、ようやく出た言葉は、
「えっと、藤堂。その――」
「ゴメン!やっぱり忘れて!」
何も聞けなかった。
顔を隠した結菜は、そのまま教室を飛び出していた……。
☆ ☆
放課後。
午後の授業に出なかった結菜は保健室にいた。
校医の吉村先生が、ベッドで泣いていた結菜の顔を覗き込んで、
「――そろそろ、大丈夫?」
「……はい。」
「もう放課後だから、今日は帰りなさい。明日の事は……後で考えれば良いから。」
吉村先生が優しく微笑む。
促されて、結菜はゆっくりと体を起こしていた……ベッドに腰掛ける。
吉村先生を見ると、彼女はポケットからマスカットキャンディーを取り出して、
「これ、あげる。」
「これ……。」
「勇気のキャンディー……って言うと、子供だましかな。でも、これを食べて勇気を持って欲しいって言うのは本当よ。だって、一歩を踏み出せたあなたには、誰かに恋して幸せになる権利が与えられたって事だから……ね。」
吉村先生は結菜の頭を静かに撫でた。
結菜は子供のような顔をして、
「私、幸せになれますか?」
「えぇ。恋をした時に、一歩踏み出して告白できない人は幸せになれないかも知れないわ。でも、一歩踏み出せた人は絶対に幸せになれる。だって、誰よりも、彼の心に近付いたって事でしょ。」
「……はい。頑張ります。」
一つ笑みを零した結菜は、一礼をして保健室を後にしていた。
廊下を歩く。放課後の廊下は少しだけ静か。
生徒の声も聞こえなくて、今の結菜にはとても似つかわしい雰囲気を醸し出していた。
階段を小走りに駆け上がって、教室に入る
……誰もいなかった。
「私だけ取り残されちゃった。」
呟く。でも、その方が安心できていた。
椅子に座って、机の中を覗いた。瞬間、フッと背後に人の気配――
「――藤堂。」
「ぇ……。」
息を呑んで振り仰ぐ。
そして、呼吸を忘れていた……。
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