あなたを選ぶ新人作家のストーリー
パタン……。
本を閉じると、それを机に押し込めた……茉莉花に告げる。
「何を……すれば良いの?」
「簡単な事。ここにいるメンバーで、あみだクジをするだけ。負けた人が罰ゲーム。」
「罰ゲーム……。」
「そう。罰ゲーム。」
茉莉花は半ば含み笑い。恐らく、誰かを生贄にして楽しもうと言う魂胆に違いない。
分かっていた。けれど、結菜は反抗せずに、
「罰ゲーム……って、何をするの?」
「教室にいる男子に告る……って言うのは、どう?」
ドクッと、鼓動が弾ける。
茉莉花は、別に大樹を指名した訳ではない。けれど、結菜の中では大樹が浮かんでいたのだから仕方がない。
まともに話す事さえできないのに、告白するなんて事は考えられない。
しかし、茉莉花の性格上、今更断る事はできないのは分かっていた。
結菜の顔色が変わった事に気付いたのか、茉莉花は口元に薄い笑みを浮かべていた。
そして、何も気付かない振りを装って、
「――じゃあ、結菜も選んで。」
「う、うん……。」
クジの残りは五本。
全部で十本あるから、数学で言う当たる確率は、ほんの10%……。
思案を巡らせる。
今朝の占いで言っていた。ラッキーナンバーは『2』だったから、普通に選べば、右から二番目か左から二番目。けど、右から二番目は選ばれているから――
「――これ……にする。」
「左から二番目ね。良いわよ。」
茉莉花は微笑すると、他のクラスメイトを振り返った。
「じゃあ、残りの人も選んで。」
茉莉花に促されて、他のクラスメイトも選んでゆく。
口にこそ出さないけれど、嫌そうにしているのは分かる。彼女たちも、ウソの告白とはいえ、誰かに告白するなんて言うのは嫌なのだろう。
間もなく、茉莉花が振り返って、
「じゃあ、罰ゲームが誰か発表ね。」
と、笑顔で言う。
一様に紅潮した頬で見守っている。と、茉莉花は、当たりの方から逆にあみだクジをしていって――
「当たりは結菜!」
「ウソ……。」
「ウソじゃないわよ。確認しなさいよ。」
偉そうに言う茉莉花。きっと、自分は最初からハズレを選んでいたに違いない。
それでも、自分が当たらなかった安堵感から、誰も、何も言わなかった。
(どうしよう……。)
結菜の頭の中を不安だけが駆け巡る。恥ずかしさから、頬が火照っているのが自分でも分かる。
茉莉花は笑みを零しながら、
「結菜、誰にする?」
「私は――」
大樹を一瞥した。でも、直ぐに視線を逸らす。
(皆の前で告白なんてできない。でも、他の人に好きなんて言いたくない。他の人に好きって言うくらいなら、嫌われても彼に言いたい……。)
強く双眸を閉じると、ずっと素直になれなかった自分と向き合う。これが良い機会なのかも知れない。信じてもらえなくても、ただの罰ゲームだと思われても、好きだって言えるチャンスなんて、もうないと思う。だったら、いっそ――
「――私、高瀬君……にする。」
「じゃあ、行って。」
茉莉花は、結菜の思いとは裏腹に軽く言っていた。
ゆっくりと立ち上がる。この数ヶ月、ずっと話し掛けられなかった事を後悔していないと言えばウソになる。けれど、それでも幸せだった。
一緒の電車で通学できるだけで、一日がハッピーに過ごせていた。何でもない事なのに、ずっと浮かれた気分でいられた。届く事がない気持ちでも、いつも満たされていた。
拒絶されても、この感情は捨てられない。ずっと信じてきたのだから、何があっても悔やむ事はない。今ここで、告白して断られても、この気持ちを見捨てない。
(――だって、私くらいは自分の気持ちがハッピーエンドを迎えられるって信じてあげたいもの。その日が永遠に来ないと言われても、私だけでも応援しないと、誰も応援なんかしてくれない。彼を誰よりも好きなのは、彼に誰よりも惹かれているのは……私だから。)
結菜は静かに歩き出す。と、一直線に大樹の所へ向かっていた。
あたかも、それが自分の気持ちだと言わんばかりに。
フッと、大樹の前に立つ。すると、大樹も気付いたようで顔を上げた……言う。
「――どうしたんだ、藤堂?」
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