あなたを選ぶ新人作家のストーリー
そこに立っていたのは大樹だった。
照れたように顔を赤くして、視線を泳がせている。時折、頬を掻いたりして、妙に落ち着かない素振り……まるで結菜と同じ。
「――藤堂、その……平気か。」
「ぁ……うん。」
「何か、昼からの授業にも出てなかったし、ちょっと心配――」
素直に嬉しかった。自然と口元がほころぶ。
それでも、平静を装って、
「うん。えっと、大丈夫…………だよ。午後の授業、サボっちゃっただけ……だから。」
「そっか。泉野に、色々と言われてたみたいだから……。」
大樹は昼休みの事をそれとなく匂わせた。
その瞬間、カッと顔を赤らめた結菜は、思わず顔を背けていた……唇を噛んで、下を向く。
その仕種に気付いた大樹は、慌てて取り繕うように続ける。
「あっ、いや……別に良いんだ。気にしなくても。」
「ぅ……。」
「分かってる。オレだって、ちゃんと分かってるよ、アレが藤堂の本気じゃないって。」
「その――」
言葉にならない。
否定したいけれど、そうすれば、嫌われるのではないかと言う不安が拭えない。だから、何も言えずにうつむいてしまう……。
チラリと大樹を見遣る。と、大樹は余所を向いたままで、
「でも、藤堂が本気じゃなくても、オレが本気で答えるのは……アリだよな?」
「え?」
「いや、だから……藤堂が好きって言ったのは本気じゃなくても、オレが『好きって言ってくれてありがとう。オレも……好きだ』って言うのは良いよなって事。」
大樹はソッポを向いたままで、そう言っていた。
(今の……本気なの?)
思うけれど、言葉にならない。恥ずかしさと嬉しさで、ひたすらに吉村先生からもらったキャンディーを握り締めるだけ。
やがて、結菜の様子を窺うような視線を送ってきた大樹がポツリと零した。
「えっと……さっきのヤツには答えなくても良いけど、取り敢えず……一緒に帰っても良いよな?同じ駅だから。」
「その……。」
「ずっと気になってた。いつも近くに乗って来るし、駅で待ってる時だって、もしかすると、オレの事を見てるんじゃないかって自信過剰になって……だから、ダメかな?」
大樹が結菜を見つめる。
(気付かれてた……でも、分かってくれてたのは嬉しい。)
溢れそうになる涙を堪えた結菜は持っていたキャンディーをポケットに押し込むと、
「うん……。」
「良かった。」
安堵の表情を見せる大樹。
(一歩踏み出せて、本当に良かった……。)
はにかむ結菜。
それから、カバンを手にすると、廊下の方を向いていた大樹に、
「その……話したい事が――」
「何?」
勇気を出してくれた大樹に、結菜も勇気を出す事で応える。
「えっと……私も昨日のテレビ…………見てた。」
「もしかして、アレ?」
「…………うん。」
結菜は、初めて大樹の前で笑えていた。
そして、ずっと思い描いていた同じ時の中にいる事を感じていた……。
一家佳仔のストーリーはいかがでしたか?
もしも面白いと思って頂けたなら、
下記リンクをクリックして他の作品もご覧になってみて下さい。
一家佳仔のストーリーはstorys.jpから、あなたの応援から始まります。
※『三分だけの遠回り』『ライバル』の2編が収録されています。
あなたの親御さんの人生を雑誌にしませんか?
著者の島津 真一さんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます