女子大生が世界一周を仕事にする話「【ベトナム】トラブルだらけの旅の始まり」

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■トラブルだらけの旅の始まり



 十三キロだったバックパックが、ベルトコンベアで奥に流れていきました。大学生活中に何回か海外には行っていたし、もう慣れた手続きのはずでした。私のパスポートを確認したグランドスタッフのお姉さんがとても可愛い顔立ちだったのでぼんやり見つめていたら、お姉さんは少し困った顔で私に聞きました。


「ベトナム出国はいつでしょうか?航空券か、出国の為の移動のチケットはお持ちですか?」


「現地でバスを予約しようと思っているので、持ってないです…。」


 その時私は瞬時に、ベトナムにノービザで入国するには、十五日以内に出国する、という証明が必要だというベトナム大使館のホームページを思い出していました。その後準備を進めるうちに何かで見かけた、証明がなくても入国できたという話を、何で見かけたのかどこで聞いたかすらその時にはもう曖昧だった話を信じて「じゃあ現地で大丈夫だよね」と思い込み、そのお姉さんの困った顔を見るまで、出国の為の予約のことなどきれいさっぱり忘れ去っていたのです。


 手続きに時間がかかりすぎている私を、見送りに来てくれた大学の友達と後輩が、心配していました。内心とても焦っていました。同時に、きちんと確認していなかった自分に腹が立ってきました。


 今からすぐにバスチケットを予約して欲しいと言われ、とりあえず携帯からインターネットで調べてはみるものの、日時と行き先を指定して送った旅行会社へのメールはとても簡潔な、予約のお問い合わせを受け付けました、という旨の自動返信メール。


 それをスタッフのお姉さんに見せたところ、出発を延期するか、このまま行ってもし入国できなければ帰国するかの二択だと言われました。航空券代を余分に払う金銭的余裕などもちろんない私に、選ぶことのできる道はひとつしかありませんでした。


「上海の経由の空いた時間でもう一度予約の問い合わせをしてみます。」


「わかりました、ではこちらが、もし入国できなくても航空会社に責任を追求しない、という内容の書類になりますのでサインをお願いします。」


 そうだな、航空会社も大変だな。と思いながら、書類にサインし、とてもとても心配そうな目で見られつつもなんとか航空券は無事取得。ばたばたしながら家族と、友達、後輩に見送られていざ!冒険の旅へ!




必死でバスの予約を試みる私




 …ということで、大好きな某漫画の主人公のように、見たことのない新しい世界に意気揚々と航海に出る気分でかっこよく旅立つはずが、実際には出国すらぎりぎりで、入国できるかどうかもわからない、なんともみっともない旅の始まりだったのでした。




 結局、ホーチミンの空港イミグレーションは問題なく通過。無事入国できてほっとしたのも束の間、予約した宿にメールで頼んでおいた空港へのピックアップは案の定おらず。空港自体がガラガラで、ほとんど人もいません。そりゃ確かに深夜だけども…。


 こんな時間に外に出ても、タクシーにぼったくられて、宿も見つかるかわからなくて、っていうどうにもならない展開は予想できたので、諦めて安全な空港内で朝まで待機することにしました。ベンチにごろりと横になり、余裕そうに振る舞ってはいたものの、貴重品の入ったバッグは抱き枕のようにぎゅっと抱えて自分の下敷きにしていました。


 私の心の中は始まったばかりの旅の興奮と不安とでぐしゃぐしゃになり、とりあえず目を瞑って心と頭を落ち着けることしかできなかったのです。




 朝になってタクシーに乗り込み、市内に出てまず驚いたのは、バイクの量の多さでした。空港からたった三十分ほどの道のりでしたが、その間に見たバイクの量だけでも、わたしが人生で見てきたバイクの数に匹敵するのではないかと思えたほどです。


 信号もほとんどないような道を、所狭しと並び、走り抜けていく何台ものバイクと車、そしてあちこちから聞こえるクラクションの音。バイクが多いとは聞いていたものの、実際に目にするのとではまた違い、交差点を通るたびにきゃあきゃあと歓声をあげる私を見て笑うドライバーのおじさん。




 タクシーを降りて、思い切り息を吸い込んだ。そうだ、この東南アジア独特の、甘ったるい、果実が腐ったような匂い。初めて友達とバックパックを背負って旅した時のことを思い出す。





そしてここ、ベトナムから私の世界一周が始まった。








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