「ある7月の晴れたさわやかな日のできごと。」⑧
壁にかかる丸時計に目をやると時刻は3時10分を回っていた。
縁側の方からセミの鳴き声が聞こえる。
さっきまで静かだったのだが彼らもシャワーを浴びたのだろうか。
さゆりは夏が好きだ。
暑いのは苦手だけど、それを含めても好きだ。
なぜかは自分でもわからない。
晴れの日が続くから。
プールに入れるから。
夏休みが始まるから。
アイスがいっぱい食べられるから。
誕生日があるから。
様々な理由が浮かぶけどどれも正しくどれもピンとこない。
大人たちが景気回復にあれこれといろんな理論を並び立てるけど、どれも正しいし、どれもピンとこない。
それと同じ。
廊下に置いてあった青いバケツの中身を取りだし、洗面所で水を入れると縁側に持ってきた。
あとは氷と大好きなアイス。
さゆりは台所に行き、冷凍庫を開けた。
作ってあった氷をグラスに入れ、縁側へ向かう。
もちろんアイスも忘れない。
ポチャポチャとグラスから氷をバケツに移す。
その小さな海は波一つなく、澄んでいた。
どこまでもどこまでも。
ズボンの裾を膝近くまでめくると、さゆりはそろそろと足先を海の内へ沈ませた。
早くも氷が小さくなっている。
「つめた」
バケツの底にさゆりの足がついた時、氷はもう数個を残して溶けていた。
【⑨に続く】
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