「ある7月の晴れたさわやかな日のできごと。」⑮

「早いね、お父さん。」


「おはよう。よく眠れたかい、顔がすっきりしているね。」

父は笑いながら、空気ポンプのレバーを押したり引いたりしていた。


「そうそう、空気入れないとって思っていたの。昨日、部活で長い距離走ったから空気が抜けているかなって。」

さゆりは腕を後ろで組み、父の方を向きながら笑う。

「そうだろうなと思っていたよ。」

父はタイヤから、空気入れの針を抜くとクルクルと本体に巻き付けている。

どうやら空気を入れ終えた様だった。

タイヤに空気を入れられたさゆりの自転車は、面接を受ける就活生の様にピンと背筋を張っている。

どこまでも、どこまでも走れるように。


皆が準備ができたのは10時をまわる頃だった。

父親が運転席に座り、助手席に母が座る。

後部座席にさゆりと詩織が座る。

いつもと同じだ。


今日はトランクに自転車を積んでいる。

さゆりが今日自転車で走るのは県境にある山から途中にあるパーキングエリアまで。

車で山の麓に着く頃にはもう少し時間がかかる。

朝に弱い詩織も既に調子がいいみたいで、水を得た魚の様にしりとりがしたいと言い出した。



【⑯に続く】

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