「ある7月の晴れたさわやかな日のできごと。」⑯

さゆりは窓から流れる景色を静かに眺めたかったので、母と詩織のしりとりを聞いていた。

「しりとり。」

「りす。」

「スイカ。」

「カメラ。」

・・・・・


車窓から入ってくるそよ風を感じながら、さゆりは母としおりのやりとりを意識の外で聞く。

田植えを終えた水田には一面に水が張られている。

日の光が反射して水田にもきれいな空が広がっていた。


どこまでも。どこまでも。


「・・・・ベルファスト。」

母が北アイルランドの首都の名を口にする。

あの有名な豪華客船タイタニック号の建造地だったっけ。


以前、旅行代理店に務めていた母はよく世界の地名を知っていた。

「なにそれ。分かんない。」


詩織はその地名を知らない様だったが、トに続く次の言葉を探していた。


「ト・・・ト・・・。」


「トマト。」


さゆりは反射的に答えていた。


昨夜、サラダの上に置かれた一つのトマト。


「あら、さゆりも相手なのね。これは困ったわ。」


母は笑いながら

「ト・・・ト・・・」と次の言葉を探す。


その後、リヴァプールだの、アディスアベバだの、ウプサラだのといった各地の地名が飛び交った。



【⑰に続く】




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