「ある7月の晴れたさわやかな日のできごと。」⑰
実際に存在する地名なのか怪しくなる時もあるが、母は滅多に嘘をつかない人なので信じることにしている。
「アンドラ・ラベラ。」
と母が言った時、父が車のエンジンを止めた。
麓に着いたらしい。
「さて、さゆり、準備しようか。」
そう言うと父は車のトランクを開け、自転車と工具が入ったケースを取り出した。
私はアーレンキーでサドルの高さを調節し、モンキーレンチで各部のネジを締め直す。
「大丈夫そう。」
「そうか。これからお父さんたちが前を走るから、その後をついてきなさい。」
「うん。」
父は車に戻るとエンジンを噴かし、走り出した。
私もギアを変え、ペダルをこぐ。
峠までは緩やかな上り坂。
左右にカーブを描きつつ、登ってゆく。
すっかり緑に包まれた山を走るのは気持ちよかった。
葉の間から注ぐ木漏れ日や小鳥のさえずりが肌に、耳に心地いい。
呼吸をする度、空気に不純物が含まれていないことを知る。
【⑱に続く】
著者の高橋 祐貴さんに人生相談を申込む
著者の高橋 祐貴さんにメッセージを送る
メッセージを送る
著者の方だけが読めます