「ある7月の晴れたさわやかな日のできごと。」⑱
詩織が車窓から頭を出して、こちらを見ているのが分かった。
彼女にも教えてやるべきか。
いや、彼女には彼女の楽しみ方があるのだ。
左カーブが迫る。
自動車はセンターラインに少し寄り車体を左に曲げる。
その後をさゆりは続く。
スピードを殺さず、大きく弧を描き、体重を左へ。
少し、直進すると、今度は右カーブ。
先ほどと同じ動作を繰り返す。
さゆりは右利きなので右回りは左回りに比べ、やや難しい。
いくつのカーブを曲がったのだろうか。
少し疲れた。
時期は少し遅れているにせよ、規制する人達はまだまだ多い。
さゆりたちの前後には自動車が列をなしていた。
都会から出てきた人達にとってはこの左右の連続カーブは慣れないようで、これまでに何度か道路脇に取られた広いスペースに駐車している車を見た。
父が窓から手を出し、さゆりを呼ぶ。
さゆりは速度を上げて、運転席の横につく。
「もうすぐで峠だ。ただその頃には渋滞しているだろうな。もし渋滞するようなら、先に下ってパーキングエリアまで行っていてくれないか。後ろの車に迷惑かけると悪いから。」
父は不機嫌そうだった。
こんなに早く渋滞にはまるとは思わなかったのだろう。
「うん。そうする。」
【⑲に続く】
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