「ある7月の晴れたさわやかな日のできごと。」⑳
しばらく景色に目を奪われていた後、前を向くと父が窓から手を出し、サインを送っているのが見えた。
もうここは峠だ。
おそらく先ほど父が言った通り、先にサービスエリアで待っていろってことだろう。
運転席の隣に近づくと父が顔を出した。
「さゆり、詰まってきたから先に行きなさい。」
「うん、先に向かうね。」
二つ返事で答える。
「じゃあ入り口付近で待っていてくれ。」
「はい、じゃあまた後で。」
そういって自動車の前へ出ようとした時、後部座席の窓が下がった。
「お姉ちゃん、これ。」
詩織が手に何かを握り、差し出していた。
さゆりも手を差し出すと、詩織は握った手をさゆりの手のひらに落とす。
詩織がゆっくりと手を開くとそこにはカロリーメイトと飴があった。
「ありがと。」
「暑いから気をつけてってお母さんが。」
そう言うと彼女の手が私の手から、”離れる”。
【最終話に続く。】
著者の高橋 祐貴さんに人生相談を申込む
著者の高橋 祐貴さんにメッセージを送る
メッセージを送る
著者の方だけが読めます