不登校クラスメイトとのちょっとしたお話①

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 中学一年生のとき、クラスにひとり、ほとんど学校に来ない子がいた。いわゆる、不登校児である。担任の女性教師は、寄り添って生徒の話を聞くというタイプではなく、クラスメイトの誰もがその子についての詳細は知らない状態だった。入学してから半年も経っていないのだから、無理からぬ話だろう。

 あるとき、担任教師が「あの子の家に様子を見に行ってくれないか」と私に言いつけた。理由は、不登校児に話を聞いたところ、私であれば話ができると答えたから、だそうだ。それにしても、丸投げかよという気持ちでしかなかった。そもそも、その不登校の子と何かを話した覚えが私にはなかったのだから、正直なところ、戸惑いしか生まれなかったのも確かなことである。

 一週間ほど経ってから、ふとその話を思い出した私は、部活終わりに友達と帰る途中でその子の家に寄ってみた。友達が同じマンションだという事で、家に辿り着く事そのものは容易いことだったのだが、問題はそこから先に進まないということだ。結局のところ、親御さんも教師も「とにかく学校に」というのが目的であり、要求なわけである。私としては、行きたがらない子を無理やり引っ張って学校に連れて行くという事に疑問しかなく、同時に奇妙な違和感を覚えていたため、最初から「学校に行かせるのだ」という思いは薄かった。

 しばらくは、朝、早くに家を出て、その子の家に寄り、少し話をしてから登校するという生活が続いた。話といっても、それほど登校再開に熱心できなかった私は、他愛のない話に終始するだけだ。テレビの話、ゲームの話、部活の面白話や漫画の話。行きたくないと言っている人間に、「学校に行け」というのは簡単だが、それはとても無責任なように感じてしまって、当時はほとんどその話はしなかった。行きたくない理由を、彼女が話してくれないかと思ってはいたのだが、そのタイミングも私が勝手に決めることではないと思っていた事も確かだ。どれほど続いたのかは覚えていないが、一週間か二週間程度は毎朝通っていたと記憶している。やがて、その子の母親が「そろそろ学校に行ってはどうか」と不登校の彼女に提案した。私としては、そうしてもらえると、こうやって遠回りをして学校に行く理由がなくなるため、それがいいかもしれないなーと漠然とした感覚でしかなかったのだが、今思えば、毎日学校の友達が来てくれているのに、という母親の思いも想像できるし、母親にそう言われても行きたくない気持ちも確かに持っていたであろうその子の気持ちもわかる。その頃になると、担任はおろか、学校側からのアプローチは殆どなかったと、その子の母親から聞いていた。ひょっとしたら、「見捨てられたかも」という思いが母親側か、あるいはその子にもあったのかもしれない。

 その翌朝、いつものように話をしに行くと、いつもは部屋着でいるその子が制服を着ていた。今日は行くのだと、だからお弁当も作ってもらったのだと。そう話す彼女は、少しだけ嬉しそうにも見えた。しかし、実際のところ、門をくぐるという行為が彼女には、とても大きな壁だったようだ。

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不登校クラスメイトとのちょっとしたお話②

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