ダメだ、絶対に。

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コミュ症だったのは完全に社交的になり、女性不信は毎日女性と話して行くことで少しづつ女心が分かってきたり、指名や売上げが上がっていくにつれ、自信が付いたからか心の奥底にしまっておけるようになっていった。


そんな生活を続けながら土曜の仕事終わり(朝5時まで)はヴェルファーレのアフターアワーズと言う、当時流行っていたサイバートランスなどのイベントに行くようになっていた。

お店で飲みまくっているからそのままのノリで踊り狂うのが毎週末の楽しみだった。


そんな中、竜先輩がヴェルファーレで踊っている姿を見た。


何でこんなかっこ良く踊れるんだろう?

外国人と並んで踊ってても様になっている竜先輩は自分の憧れの先輩になっていた。


「お疲れ様です!」

「おぉ、お前か。」

「先輩も来てたんすね!」

「おう。結構来てるし、DJもやってんだよね。」

「えっ?そうなんですか!」

「じゃあ、家に来てみる?DJするよ。」

「行きます!」


と、こんな感じで竜先輩の家に遊びに行けるようになった。

元々の萎縮タイプコミュ症の僕は、憧れている先輩に気軽に話しかけることも出来なかったし、一匹狼タイプだと思っていたから、気を使って話しかけれなかったと言うのもあったかもしれない。


それから僕は竜先輩の家に入り浸るようになり、週の3日から5日は一緒に過ごすようになっていった。

アフター以外のイベントにも一緒に行ったり、とにかく遊んだし、竜先輩の事が色々よく分かってきた。


家庭環境がとても複雑だということが、竜先輩の人格形成のほとんどを占めていると思う。

とにかく複雑過ぎる。

離婚して母子家庭とかそう言うのでもなく、とにかく複雑だった。


だから、本当は凄く寂しがりやだったんだ。



ホスト引退から


僕はこのままこの店で働いていると役者の夢がブレてしまうと思ったので、思い切って辞めることにした。

そこそこの給料は貰っていたし、教育係のようなポジションや、毎日コンパしているような綺羅びやかな感じだったり、大御所の人達と非日常の遊びを共有させて貰っていたり、芸能人も時々来たり…

実像そうで、虚像で、その虚像に飲まれ始めている自分に危機感を覚えたからだ。


1年8ヶ月と言う期間できっぱり辞め、その後は何をしようかと色々考えていたが、その頃はギャンブルによる借金がかさんでいたので、データ入力と言う名の、当時ブームだった出会い系サイトのサクラの仕事につくことにした。


今は法律的にもモラル的にもやるべきではない仕事だけど、当時はサクラと言うビジネスモデルで大儲けしまくっているIT企業がとにかく多かった。

1サイトで月に数億円と言う売上げがざらだった。


そんなグレーな会社がその竜先輩の家から歩いて3分位の所だったので、やめても相変わらず遊ぶ頻度は変わらなかった。


でも、自分の中で変わったことがもう一つあった。

彼女が出来ていた。


その彼女と付き合うことになり、彼女と遊ぶ時間が多くなり竜先輩と遊ぶ時間が少なくなっていった。



アイス


「最近△△とアイスやってんだよ。」


久日ぶりに竜先輩の家に遊びに行くと、相変わらずの爆音の中でDJをしていた。
でも、決定的に違う事が一つだけあった。


それは、竜先輩が覚せい剤に手を出していたことだ。


アイス


隠語だったから最初は何のことか分からなかったけど、いつも見慣れていた小さなテーブルを見ると小さい透明のパケと呼ばれる袋に透明な結晶体が少しだけ入っているものと、吸引器のようなものが置いてあった。


「ほどほどにしておいて下さいね。」


僕はそれ位しか言うことは出来なかった。

後は竜先輩だったら変にハマったりしないだろうという気持ちもあったからだ。


憧れの先輩が覚せい剤に手を出したショックは大きかったけど、芯が強く、ブレた所は見たことがないから問題は無いだろうと勝手に思っていた。


その後、二週間に一回くらいが、月に一度会うか会わないかになり、3ヶ月くらい経った頃、久しぶりに竜先輩の家に遊びに行った。



新しく竜先輩にも彼女ができていた。そして僕と入れ替わり位で入ったお店の後輩もいた。



そして、竜先輩はアイスをやっていた。



会う度に言動がおかしくなっている。

行動もおかしい。

目は虚ろ。


そして、久々に有明のイベントホールでトランスのイベントがあるので、竜先輩を含めみんなで行くことになった。


だけど、会場に着くなり


「幽霊が多すぎるから、ここにいるみんなが危ない!ウチラも危ないぞ!!」


と言ってきかないので、結局すぐに帰ることになった。


そして家に着くと



「幽霊が着いて来た。俺はアイスを吸ってから霊感が付いた。ドアの丸窓見てみろよ?いるだろ?」



すでに、、、、、


竜先輩は完全におかしくなっていた。



もしかしたら本当に見えているのかもしれない。

本当に霊感がある人なのかもしれない。

でも僕には見えないし、幻覚としか思えない。


いくら憧れている先輩とはいえ、どう考えても禁断症状としか思えない。

芯が強く、絶対にブレない人でさえも、覚せい剤の依存性には敵わないと思う。


だから僕は


「竜先輩、どう考えてもアイス吸ってるからだと思いますよ!マジで完全に覚せい剤が切れて、それでも見れるんだったら信じれますけど、今の先輩の状況だと何も信じれないです。

前と比べてどう考えても、話も行動もおかしいです。もうやめて貰えませんか?」


「俺は普通だよ!!!いつでも辞めれるし、辞めても見えることには変わりない。だから別に辞めても辞めなくても一緒だ。」


この会話を10回位繰り返した。


繰り返した理由は恐らく、竜先輩が覚せい剤によって頭がおかしくなったから、同じことを何回も繰り返すからだ。


もう、僕にはどうすることも出来なかった。

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