今だから、脱原発を考える

 2014年11月、安部首相は衆議院を解散すると発表した。衆議院選挙に向けての幕開けである。

 ところで前回の衆議院選挙は、ちょうど2年前の2012年11月に行われた。その時の大きな争点は、消費税増税の是非もあったが、我々の大きな関心事は、福島第一原発事故後のエネルギー政策のあり方ではなかっただろうか?野合と批判されながら、「卒原発」という政策を大きな柱とする「日本未来の党」が結成されたほど、この時は関心が高かった。

 ところが、今国民はどれだけ将来の原発政策に関して興味があるのだろうか?福島第一原発では廃炉が進められているが、未だにトラブルが続いている。そして度々汚染水漏れの事故がニュースで報じられているが、慣れてしまったせいか以前ほど問題意識が薄れているような気がする。

 一方で今存在する原発の再稼働に向けた審査が続けられている。最近では、鹿児島県の九州電力川内原子力発電所が再稼働するのではないか、と報じられている。2、3年前ならば、こういった再稼働に向けた発表があると、国会議事堂を囲んだデモなど大変なことになった。今は以前ほど反対運動の動きはみられない。一体どうしたのだろうか?

 僕が今住んでいるのは、茨城県東海村。日本で初めて原子炉が稼働した場所であり、現在でも東海第二原子力発電所など、原子力関連の施設が多く存在している村である。

 この東海第二原発、福島第一原発と同様に東日本大震災で津波の被害を受ける危険性があり、本当にぎりぎりのところで危機を回避できたのである。津波対策として原発の取水口部分の防波壁の高さを6.1mにかさ上げする工事を行っており、その工事が完了したのは震災の2日前だったのである。今回、東海第2原発に到達した津波は5.4m。震災が起きる前に津波対策が完了していたために、非常用ディーゼル発電機と冷却水ポンプが水没せずに済み、福島第一原発のような事故が起きなかったのである。

 もし事故が起きていたら、福島第一原発の周辺よりも人口が多く、しかも首都圏に近い場所にあるため、被害は甚大だったであろう。そして間違いなく、僕は今東海村に住んでいないであろう。

 東海村は住民のほとんどが原子力産業に従事している。そして原子力施設の立地対策として国から多くの補助金が支給されている。おかげで村の公共施設は立派で、住民へのサービスも充実している。

 そんな村だから、原子力政策のことを公の場で簡単に批判することができない雰囲気がある。そして原子力産業の仕事に従事していることに誇りを持っている方も多い。僕の知人の方で原子力産業に従事している方に脱原発の話をしたら、「今まで二酸化炭素の排出量を削減するという使命をもって仕事をしてきたのに、今さら否定するとは何事だ」と言われたという。

 そんな村で当時の村上達也村長は、原発を抱える自治体の首長として震災以降いち早く「廃炉」を宣言した。村上村長は、JCO臨界事故当時も村長であり、何か事故が起きた際に住民を避難させることの難しさや、国や関係機関の事故当時の対応の甘さというのも実感していた。

 村上村長はインタビューで次のようにおっしゃっている。

「原発で栄えることはない。たくさんお金が入ってくるが、それに依存する社会になり、自立する力を失ってしまう。その点に早く気付き、原発からのお金が入ってくるうちに、依存から脱却していかなくてはならない。未来志向型のまちづくりが必要」と。

 僕は2年前の衆議院選挙の時も東海村に住んでいた。当時はまだ都内で脱原発のデモが盛んに行われていたが、僕は若干冷ややかな目で見ていた。僕は「東京で電力を多く消費しているのに、東京だけで脱原発を叫んで何が解決するんだ。地方は原子力産業に依存しなければならないほど経済的に大変なんだ。」と心の中で訴えていた。

 東日本大震災、そして福島第一原子力発電所の事故からまもなく3年が経過する。よくマスコミは「震災が起こったことを風化させてはならない」と訴えているけれど、本当に風化してしまったと思う。こんなこと言いたくないけど、数年前の東京での脱原発のデモは、福島第一原発の事故で避難を余儀なくされた人や、原発の近くに住んでいる人を思っての活動だったのではなく、単なる「自己満足」のためだったのでは?と思ってしまう。そういう意味では、僕のような当事者、つまり東日本大震災を経験し、原発の近くに住んでいる人が継続して問題を訴えることが重要ではないかと思う。

 僕は安易に脱原発とか、原発を再稼働すべきとか、白黒つけて他人に考えを押しつけることはしません。ただ言いたいのは、時々地方に住んでいる方や、原発事故で避難されている方のことを想像してほしい。次の衆議院選挙では、「今だから、脱原発」を考えてほしいと思います。

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