このページは2ページ目です
1ページ目から読む

20 min read

ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。

Picture?width=400&height=400
著者:
小林 慎太郎
2 / 8ページ

ただ、これだけだと何だかつまらないのと、僕よりも優れた人など吐いて捨てるほどいるので、勝負にならない。それで、突発的に「ラブレター代筆」を加えた。依頼主に代わり、想いを寄せる人へ向けたラブレターの文面を考えるというものだ。


正直なところ、「ラブレター代筆」を選んだ明確な理由はない。

ラブレター代筆を仕事として掲げたらネタになりそうだな、というくらいの動機。

実際にラブレター代筆の仕事が来るなどと思っておらず、「就職・転職対策」と「プレゼンテーション指導」へ誘導するための客寄せパンダのような効果を期待していたに過ぎない。


何はともあれ、ホームページ創世記のような手作り感満載の自社サイトと、エクセルで作った稚拙な宣伝チラシのみを武器に、僕は個人としての活動を始めた。


『何かを始めるときの自分が、一番臆病で、そして一番勇敢だ』


吉田修一の小説に出てくる言葉を思い出していた。


■ラブレター代筆、初受注


活動を始めてから一ヶ月。何も仕事は来なかった。迷惑メールすら来なかった。

街中に立ってチラシを配ったり、笑われることを覚悟で友人・知人に宣伝をしたり(予想通り、もれなく嘲笑をされたけれど・・・)、PRツールとしてブログを開設してちょこちょと更新をしたりしてみたものの、どこからも誰からも仕事は来なかった。世の中から人が消えてしまったのではないかと思った。


価格が高いのかな?という安易な発想で、各サービスの価格をコロコロ変えたりもした。

「ラブレター代筆」ひとつをとっても、2,000円になったり、3,000円になったり、7,000円になったり、8,000円になったり、10,000円になったり、目まぐるしく変化をした。


個人としての活動を始める前、仕事をしながら大学院に通い、マーケティングの講義で価格戦略などというものを教わったりしたが、そんなものを意識している余裕はなかった。戦略は「戦い」を「省略」すると意味で戦略というらしいけれど、僕はとにかく戦いたかったので省略などしたくなかった。とにかく仕事がしたかった。


僕が生きている世界は実は空想で、目に見えている人たちは実際は存在しないのでは??


安いSF映画のような設定を本気で信じ始めていた時、とうとう仕事が舞い込んだ。

しかも、実際に仕事が来ることなど想像していなかったラブレター代筆の依頼だった。


待ち焦がれた初めての依頼メールを前に胸を高鳴らせていたのも束の間、僕は首をひねった。

メールに書かれている内容を理解することができなかったからだ。


文面はこちらで考えるので、文字だけ書いて頂きたいです。


このような内容だった。


文字だけ書く?

サイト上にそのような表現が記載をされていたのかなと思い見直してみたが、そのような記載は見当たらない。


そもそも、僕に文字の代筆をお願いする人がこの世の中に存在するなどと思っていなかった。

友人なら誰しもが知っていることだが、僕はひどいクセ字だ。いや、クセ字という言葉に逃げるのはよそう。単純に、とても字が汚い。


何かの手続きをした際に、書類に自分の名前を記載する必要があり、”小林”と自分の苗字を書いたところ、「山本さんですか?」と問われるくらい汚い。

道端に落ちていた携帯電話を警察に届けた際、拾い主として書類に署名を求められ、”小林”と書いたところ、「ゆっくりでいいからもっと丁寧に書いて」と言われたくらい汚い。