このページは3ページ目です
1ページ目から読む

20 min read

ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。

Picture?width=400&height=400
著者:
小林 慎太郎
3 / 8ページ

それよりも何よりも、5,000円も払って(結局、ラブレター代筆は5,000円に落ち着いた)文字の代筆だけ依頼をする意味がわからなかった。

書道家などに依頼をするのならまだしも、どこの馬の骨とも青二才ともひょうろく玉ともわからない僕にお願いをしてくる意味がわからなかった。


ご依頼頂きまして誠にありがとうございます。

ご確認なのですが、内容は○○様に考案頂き、私は頂戴した内容を手紙に書き写すだけでよろしいのでしょうか?


僕は返信をした。

やはりどうしても理解ができないので、あらためて確認をした。

すぐに返信が来た。


病気の影響で上手に字を書けないため、代わりに字を書いて欲しいのです。


そう綴られていた。

それ以上問うのは止め、僕は引き受けることにした。


しかしながら、文字を書くだけ、しかも僕の字で5,000円ではあまりにも法外な値段のため、1,000円で引き受けることにした。正直なところ、1,000円でも罪悪感があった。僕が1,000円を払って書かせてもらうくらいでちょうどよい気がしたが、とにもかくにも対価として1,000円を頂くことになった。


また、依頼者の想定を僕の悪筆が大きく超えている可能性も否めなかったため、手紙に書き写した文字を見てもらい、駄目なようなら率直にそう言ってもらい、この依頼はなかったことにする、という約束も取り付けた。



そして仕事を引き受けた翌日、依頼者から文面が送られてきた。


細かい内容は伏せるが、そこには、以前会った時の出来事を詫びる言葉が書かれていた。文章量としては、LINEで完結するようなごく短い文章だった。


この短い文章を書くのに、僕に代筆を依頼しなくてはならない依頼者に思いを馳せた。


字が汚いとか何とか言ってられない。

とにかくやるしかない。


レターセットを購入し、マクドナルドの2階席の隅で、僕は清書に没頭した。

当たり前のことではあるけれど、書いても書いても書いても、残念ながら字が上手にならない。

レターがなくなったため、新たに買い直し、再び書き始める。


おっ、なかなか上手く書けたな、と思ったら字を間違えて、すべてが台無しになる。

おっ→台無し、おっ→台無し、おっ→台無しを何回か繰り返し、2時間ほど経った頃、ようやく納得のいく文字を書くことができた。


書いた手紙を写真にとり、問題がないか依頼者に送る。


達成感と、ごく短い文章にここまで時間をかけなくてはならない自身の筆力に対する敗北感とに苛まされていると、依頼者からメールが送られてきた。


手紙の作成ありがとうございました。問題ありません。


肩の力がどっと抜けた。