ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。

5 / 8 ページ

ひとつひとつ、かみ締めるようにゆっくりと言葉を紡ぐのが印象的だった。


10分ほど他愛もないやり取りをし、注文をしたコーヒーが届いた頃、僕は本題を切り出した。


「ご依頼の詳細を聞かせて頂けますか?」


メールでのやり取りの中では「詳細は直接会ってから話します」としか聞いていなかった。だから、僕は男性がラブレターを送りたい相手、相手への想いなど、この時点では何も把握をしていなかった。


「お恥ずかしい話、3ヶ月ほど前に離婚をしたんです」


そうつぶやくと、男性はコーヒーへと口をつける。

ん?・・・。僕は胸騒ぎがした。何だか嫌な予感がする。


「僕が甲斐性がなかったんでしょうね・・・。それ以来、メールをしてもLINEをしても電話をしてもまったくつながらないんです。まあ、離婚をしたのだから当たり前かもしれませんけど」


僕の言葉を待つことなく、男性は話し続ける。


「でもね、離婚をしたからといって想いが断ち切れるかというと、そんな単純なものではないんですよ。自分から別れを切り出したのならまだしも、別れを告げられた側だからなおさらです。僕は絶対に離婚はしたくなかったんです」


男性は顔を上げ僕の目をまっすぐに見ると、


「メールもLINEも駄目なら、手紙しかないと思って、デンシンワークスさん、小林さんに依頼をすることにしたんです!離婚をなかったことにしてほしいんです」


あぁ、やはりそう来たか。そう来ますよね。

僕は男性の視線を避けるように、コーヒーに口をつけた。


僕の経験上、ラブレターが効果的に機能するのは、ラブレターを受け取る側から送り主への想いが30%~40%くらいはあること、が前提だと思っている。つまり、今回の場合、離婚をした奥様から依頼主への想いが30%~40%くらいはないと成立しない。

そのくらいの割合以上想いがあれば、「ラブレターなんて素敵!」となるのだが、それよりも割合が下だと「ラブレターって・・・重い!」と受け取られてしまうと思う。


そして、今回お話を聞く限りだと、お相手から依頼主への想いは30%は絶対にない、と感じた。

別に、上手くいきそうな依頼だけを受けるつもりは毛頭ないが、「重い!本当にイヤ」と思われてしまうと、お子さんに会うことを禁止されたりしてしまうのでは・・・と、それが心配だった。


そして、これもまた僕の経験上の話だが、一度心が離れてしまった女性の心が再び戻ることはないと思っている。一度離れた男性の心が戻る可能性はあるが、女性はない。絶対ない。


ただ、それをそのまま伝えるわけにもいかず、「なるほどなるほど」と、とりあえず相槌を僕は打った。


「10歳以上も年下の方にみっともない姿を見せてしまっていますが、恥も外聞もないんです。手紙だけが頼りなんです」


自分より10歳以上も年上の男性に頭を下げられ、無下に断ることもできなかった僕は、

「なるほど。お気持ちはよくわかりました。うんうん・・・、そうですね、まあ、うん、そうですね。結果は保証しかねますが、結果はどうなるかはわかりませんが、結果は何ともですが・・・、是非書かせてください」

と歯切れ悪く承諾をした。


深々と頭を下げる男性と別れると、「どうしよう・・・」と僕は頭を悩ませた。

みんなの読んで良かった!