【サラサラツルツル脳の旅。第9回】「レナードの朝みたいだ」。ザリガニで文字を書けるようになったT君の話②

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後編: 【脳の旅。第10回】「発達障害は改善しますか」「自閉症は治りますか」と聞かれて。

 奇跡という言葉がありますが、例えば、それまで何もできなかった子が、何かをできるようになったとき、「これは奇跡だ」という人がいます。


 でも、私は思うのです。奇跡はあらかじめ、それが見えている場合にしか起こらないのではないかと。


映画『レナードの朝』

http://movies.yahoo.co.jp/movie/%E3%83%AC%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%AE%E6%9C%9D/25436/


     ☆


 私とT君は長い付き合いでした。中1のときから副担を経て担任として、3年近く見ていました。難病を抱える子で、結節性硬化症による重度の自閉症がありました。脳の前頭葉の細胞に病変があるということでした。


 私はこの子のおかげで、一生涯の思いをはせるくらいの体験をさせてもらいました。


 T君は文字を書いたことも、絵を描いたこともありませんでした。普段は静かにじーっと椅子に座っていましたが、人と視線が合うことがなかなかありませんでした。私とも、視線が合うようになるまで、とても時間がかかりました。箱を折る作業も視線が定まらず、手順が飲み込めないので習得するのに大変でした。


 けれども、時折なにげなく笑ったり、喜んだりする面が、この子の明るい性格を物語っていました。


 特に、生き物を見るときの目は輝いていました。おうちでラブラドールを飼っていると聞いていたので動物が好きなんだろうと思いました。箱折りの習得に疲れると、私たちは授業時間を抜け出して、牛小屋によく遊びに行ったものです。


 T君は、何でもできるとは言い難い面がありました。特にコミュニケーションの面では、やり取りにならないことがほとんどでした。


 でも、私は牛小屋に行ったとき、はっと息を飲みました。


(そのときに偶然撮っていた写真)


 T君が水の入ったバケツをどこからか持ってきて、牛のそばに置いたのです。しかも、T君はその水を牛が飲みやすいように、口元に近づけていました。


 私は、この子は自分から、何かできるのではないかと思いました。


     ☆


 自分で何かに気づいて、行動できる子は賢い子です。


 その頃には、足を使った成果なのでしょうか。だんだんと、クラスの子に落ち着きが見られるようになりました。情緒の不安定さが減り、夜に寝られなかった子も、少しずつ寝られることが多くなっていました。


 私はその変化を、何か別の形で見たいと思っていました。


 雨に濡れても傘を差さない子たちですが、牛に水をやったT君の姿は、この子たちに「意思と主体性がある」ことを教えてくれました。


 私は、この子たちが認知できるもの(わかるもの)を箇条書きにしてみました。


みんなの読んで良かった!