【脳の旅。第10回】「発達障害は改善しますか」「自閉症は治りますか」と聞かれて。

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前編: 【サラサラツルツル脳の旅。第9回】「レナードの朝みたいだ」。ザリガニで文字を書けるようになったT君の話②

 

 その後もザリガニの絵は進化していきます。興味があれば、こちらにのせておきますのでどうぞ。

 http://ookinamura.main.jp/concept.html



 文字も絵も書いたことのなかった子が、じょうずに絵を描き始める。


 そんな一見「奇跡」のようなことは、その学校の長い歴史から言えば、ほんのささいな出来事でした。今でもあの学校と老人を思い出すとき、私はそんな奇跡のようなことの積み重ねが、あの学校の歴史を作ってきたのだろうと思います。「足の神経については調べてみたか」といったあの老人には、全てが見えていたのです。


(吉沢茂弘『幼児の有酸素性能力の発達』杏林書院2002より。有酸素運動が人の脳を活性化するのだ、と言われて手に取った本)


     ☆


 老人の考えていたことは、障がいのある子の脳や神経系を、いかに普段の生活のなかで強くしていくかというものでした。

 それは大変な訓練になります。大げさに言えば、障がいのある子に、マラソンや水泳などをさせることがよいということになります。


 最近よく見られる、絵カードや、物の周囲をダンボールで囲ったり、タブレットを使って勉強を教えてあげるというようなものとはちょっと違います。

 私も「認知しやすいように支援してあげる」ためにやったりしますが、それは教育の「方法」です。




 大学で学んでいた頃、ある学生が、

「え? この子たちをダンボール箱のなかで生活させるの?

と言ったことがありました。ダンボール箱での教育環境が、その学生には奇異に映ったのでしょう(このような教育方法を「構造化」といいます)。私はいい視点を与えてもらったな、と思います。自閉症の教育はこういうものだ、発達障害の教育はこうしたらよい、ということが最近ぐんぐんと言われていますが、それはどれも「方法」なのです。


 方法ではなくて「目的」のほうを見ると、私の活動は「障がいによって弱くなってしまった脳や神経をいかに強くするか」ということに取り組んでいるということになります。ダンボール箱のなかで教育したら、その脳や神経が強くなるというのではないと思うので、目的はまた別のものなのです。


 脳や神経系を鍛えたいと思ったら、運動と睡眠をつなげなければなりません。

 とはいえ、マラソンや水泳をいっぱいやることも、夜きちんと眠れているかを確認することも、昨今の教育現場では難しいでしょう。一般の小中学校でも、最近は持久走をしないと聞いたりします。これは私の思うところですが、結局、大きな河というのは、流れるほうに流れて行く。別に悪い意味でもなく、たいてい、そういうものだと思います。


 でも、何かを根本的に「変えたい」というのであれば、いろいろな流れを見比べたり、流れをさかのぼってみたりして、よく考えてみることも必要かもしれません。

 私は、障がいのある子たちと向き合う上で、脳や神経系を強くすることに興味を持ったので、学校現場を離れたのです。


 ときどき、私に「発達障害は改善しますか」「自閉症は治りますか」ということを聞いてくるかたがおられます。障害は治るものではありませんので、そんなことが本当にできるとすれば奇跡です。誇大広告もあると思いますので要注意です(あくまで私見ですが)。


 私がその老人に見せてもらった世界というのは、そんな奇跡ではなくて、「生活を改善することが、こんなにも脳の状態を変えることもあるかもしれない」ということです。運動や睡眠をよくすることが、人間にとっていかに大切なことなのか。


 その成果が、T君の絵や文字なのでした。



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