【第三話】『さよなら…』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

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僕がやっとの思いで築き上げた、自分の居場所だった。



「大丈夫!」


「傷病手当は毎月入るし、家事だって出来るから!」



両親は、


「本当に大丈夫か?」


と言っていたが、

僕の気持ちを察して、


「何かあったらすぐに連絡をしなさい。」


とだけ言った。


夕方になり、僕は家に帰った。


帰り道。


僕は、心のどこかで、彼女が家で待っていてくれているのではないかと思っていた。


「やっぱりやめたー!」


と言って、また一緒に暮らせるんじゃないかと思っていた。


しかし、そんなはずはない。


玄関のドアを開け、家に入ると、

積み重ねてあったダンボール達は、一つも無くなっていた。


残っていたのは、ゴミ袋と、ヒモで縛ったゼクシィの束だった。


僕は、思わず


「まじかよ…」


と口に出した。


当てつけかと思えるような行動に、


笑ってしまうくらい呆れた。


そして、深く深く傷付いた。


それから僕は、

彼女が去ったこの部屋で、

一人では贅沢すぎるこの部屋で、

独り、悲しみと闘い続けた。

彼女と過ごした過去と闘い続けた。

そして、彼女がいない現実と闘い続けた。



僕の症状は深刻化する。




初めのうちは、毎日家事をやり、外出もし、何とか理性を保っていた。

一人では何も出来ないなんて思われたくなかったし、

親にも心配をかけたくなかった。


しかし、やはりどうやっても、

彼女を失ったことを受け入れられなかった。


僕は、自分を責めて責めて責め続けた。



数日が経ち、


僕には一つ気がかりなことがあった。


「結婚式場」


彼女からキャンセルをしたとの連絡は来てなかった。


僕は結婚式場に電話をかけた。

彼女からキャンセルの連絡は来ていないようだった。


僕は、なんだか不思議な気持ちになった。


「やっぱり戻りたいと思っているのか?」

「彼女はまだ迷っているのか?」

「僕を試しているのか?」


そう思った。


しかし、2人で出した決断だ。


人生を左右する決断を、そんな中途半端に考えているとしたら、

僕は許すことが出来なかった。


次の日、僕は独りで結婚式場に行き、キャンセルの書類にサインをした。



正直なところ、この辺りのことを僕はあまり鮮明に覚えていない。


人は生命の存続に危機を感じるようなショックな出来事は、

脳にインプットされないように出来ているらしい。


タイムスリップをしたかのように、彼女が出て行ってから2週間ほどの記憶はあまりない。



僕は本当にうつ病になっていた。


自他ともに認めるうつ病に。


次第に不眠がさらにひどくなり、幻聴や幻覚を見るほどだった。


処方される薬はどんどん増えていった。

朝、昼、晩、様々な薬を試した。


夢と現実の区別が付かないような、

意識が朦朧とした状態だった。


そう言えば、彼女は薬を飲むことに反対だった。


薬を飲んでる姿を見るのも辛いって言ってたな…。

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