人の闇を見てしまった話 1

その日私は、始めてのポーカーゲームに参加していた。

アメリカなどで主流の、テキサス・ホールデム。

英語がとびかう環境の中、私は不安だった。


英語がとぎれとぎれにしかわからない。

話しかけられても、ヘラヘラ笑うことしかできない。

ポーカーのこともよくわからない。

周りは盛り上がっているのに、私だけ黙っている。


わたしは、ここにいていいんだろうか、

邪魔者じゃないだろうか?

そんな居心地の悪さが、胸の中でぐるぐるしていた。


そんな中で、何度も話しかけてくれたのが、ウィリアム(イケメンではない)だった。


ウィリアム(ブサメンでもない)は、とても女好きそうなタイプだった。

というのも、彼は、私に話しかける前にも、別の女性に、かなり不自然に話しかけていたからだ。


そこはシェアオフィスだったので、ちょっと離れたところで仕事をしている女性がいた。

彼女の机の上には、フィギュアがかざってあった。

ウィリアム「それ、何?」

Yさん「ああ、これは月面着陸時のアームストロング船長です。好きなんですよ〜」

会話のきっかけとしてはいい。

自然だと思う。

でもウィリアムは、ポーカーの席に座ったままで、そこからちょっと離れたデスクに座ってるYさんにしゃべりかけてるのは、なんというか、かなり不自然だった。


距離的な要因もあってか、会話は長く続かなかった。

わたしは内心彼を、すごいと思いはじめていた。

ただでさえ、異性にアプローチするのは、恥ずかしくて中々できないのに、彼は堂々と、たとえそれが不自然になろうとも、やってのけたのだ。

なんのためらいもなく息をするようにやってのけたところをみると、たぶん普段からそうしているんだろう。

シャイな方の私は、畏敬の念を持ちはじめていた。

それからしばらくして、ウィリアムは今度は私に話しかけてきた。

彼は女好きなんだと思った。

話しかけてくれる人がいるのはありがたかった。

彼の英語は、あんまり早くなくて、比較的聞き取りやすかった。


カードのシャッフルの仕方や、チップの積み重ね方を教えてくれた。

自分の持ち札をこっそり見せてくれたりした。


嬉しかった。
 

ウィリアムとコミュニケーションしていることで、わたしは体面だけでも、そこの一員になれた。

そこにいてもいいような気がした。


そのときのわたしは、ウィリアムが内心、恐ろしい思想を抱えているなんて、想像すらしていなかった。

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