「そんなんじゃ一生結婚なんてできないよ。さよなら」さすが失恋物語

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「私は別にないよ。デイはご飯と昼寝だけだから。カズさんみたいにスケベ心はないし、ははは。」

と明るく笑った。今日は調子がいい日らしい。

「でも、デイケアって将来危ないって言うか、あんまり明るい未来はないらしいよね。」

「そうそう、私も聞いた。あんまり補助金っていうか、点数が減らされて、経営できなくなるようになるって。」

「なんでかな?」

「そりゃあ、食って寝るだけの人が多いからじゃないのぉ?」

「ううう、そりゃあ、確かに税金使って、食って寝るだけじゃななあ。そういやあ、最近実習生も少ないし、ボランティアの人もいないなあ。」

「時代なのかな。」

「でも、居場所って必要じゃない?」

「ここがあるじゃん」

ココとは喫茶店で、デイケアとクリニックと経営者が同じ精神科医で、精神病患者の作業所として作った喫茶店だった。その喫茶店でレジやケーキ作りを覚えて、仕事に慣れることで外の一般就労に結び付けて、卒業させるのが精神科医の狙いだった。それはある程度成功していた。だが、精神病患者やデイケアメンバーの居場所としてはすこしずれていた。

店員は全員、メンバーかスタッフで知ってる顔ばかりだが、一般のお客様にはあくまで普通の喫茶店として接客していたので、知ってるメンバーと店員とは自由に会話できなかった。居座るにしても、あまり大声で病気のことを話すのは気が引けた。座って2、3人でお茶するのがせいぜいの喫茶店だった。

「俺は、居場所がほしいんだよ。」

「居場所っていっても一人だったらどこでもいいじゃん。」

「そうじゃなくて、メンバー同士が話し合える場所、っていうか会を作りたいんだよ。」

「会??ってサークルみたいな?なにやるの?」

「そう、サークルみたいな。何やろうかな。人が集まること。おしゃべりでいいんだけどな。」

「そんなんじゃ誰もあつまらないよ。」

「そうか、じゃあ、働いてデイケアにこれないメンバーがあつまる会」

「ええっ!!!働いてる人限定なの??そりゃあ、狭くない??」

「そうか、じゃあ、これから働く人でもいい。」

「で、何をはなすの?」

「そりゃあ、苦労話とか、愚痴とか。」

「ああ、やだやだ、愚痴大会かあ。出たくないわ。」

「それ以外にも、働こうって人に体験談を話したり、そうだ、中村さんに話してもらたったり」

「へええ、それなら良さそうね。」

「だろう。よし、決まった。働く精神障害者の体験談の会だ。ハルさんも出る?」

「ふうん、よかったね。私は出ないけどね」

「なんだよ、つまんねえな」

「悪いけどそんなに暇じゃないの」

「ええ、なんだよお。でもさ、体験談は聞きたいな。ハルさんは働いてるし、いっぱい体験談もってそうじゃん。」

「そうね、話ぐらいならしてもいいわよ。」

「そうだ体験談をまとめて本にしよう。一冊本を作るってかっこよくねえ??」

「まあ、元気ねえ。まあ、気長にね。院長に相談したら?多分、こりゃあ、症状が悪いな、クスリ増やしますって言われるとおもうけ土ね。ははははは。」

ハルの毒舌は快調だった。

それでも気分よく自分の思い付きをまとめられた和樹は帰りの電車で、手帳に早速メモしていた。

(よーし。これから体験談の会を作って、本を作るかあ。なんか楽しそうだなあ。)

と考えながら、メンバーやスタッフの顔を思い出していた。

第10章 小悪魔

 金山に待ち合わせしてからは、三河湾の見える駅まで電車であっという間だった。スタッフとメンバーの普通の会話のような友達どうしのような様子だった。

「利恵さん、どうしてジャズなの??」

「私、ジャズピアノ習ってて、その先生が今日弾くの。でも一人で行くと先生が変に思うかなあって思って。和樹くんはジャズ聞くの?」

「ジャズかあ、あんまり知らないなあ。枯葉とか??」

「そうそう」

そんな会話でどうやら利恵さんは先生に惚れてるらしいというのが薄々分かってきた。

駅からタクシーだった。

「たらそっていう喫茶店までお願いします。」

「はい」

無愛想でちょっと品の悪い感じのおじさんの運転手だった。

「お宅ら、ホテルに泊まってのかい?」

「いえ、泊まりません。喫茶店だけです」

「いまは、そういっても後で泊まることになるかもしれないからなあ。また呼んでよ、ははっは」

下品なオヤジに腹が立つやら恥ずかしいやら、

急に目と目を合わせられなくなった。

「はい、着いたよ」

「じゃあ、また帰りに電話します」

タクシーを降りてから何事もなかったようにまた友達モードの二人になったが、ちょっと遠くまで二人でデートしてるのが傍からみるとやっぱりカップルに見えるんだなあ。と思ったりしていた。

「ねえ、和樹。あれが、先生。どう、かっこいいでしょ。」

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