出会い系サイトで裸を売る女の話(みすず)

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家までの案内は手慣れたもの。

「私、説明うまいでしょ。」

みすずは大きな声で笑っていた。

私が居るのに、別の男を呼んで売春をする。驚きの神経である。

数分後、別の男が来た。

私は、物音を立てないように2階で待つことにした。そこには、丸く太った猫が居た。

2階の壁や襖は、猫の引っ掻きで原型も留めていない程に破けている。

猫の糞と毛にまみれた部屋は、1階に居るよりはるかに苦痛だった。

布団が2枚敷いてあり、そこには至るところティッシュが散らかっている。

そして、あの生臭い臭いが充満している。(写真)

すると、男の意気揚々とした甲高い声が聞こえてきた。

「出会い系ってサクラが多いじゃん。あなたサクラじゃ無いんだ、ラッキー。」

「今日、信号無視で警察に捕まったがよ。」

噛み合わない話が数分続いた後、促したのはみすずからだった。

「そろそろ脱いでもらって良い。」

みすずはこうも言った。

「早く逝ってね。」

粘膜と粘膜が重なる音。男の甲高い喘ぎ声。TVから聞こえる飛行機の着陸失敗の速報ニュース、それらが同時に響き始めた。

不思議とみすずの声は聞こえなかった。「セックスは嫌い。」さっき言っていたその言葉は本当なのかもしれない。

行為が終わると、男は満足したかのような甲高い声をあげて帰っていった。

「ありがとう!またね。」

そんなリアルな現場に遭遇したことで、私は虚しい寂しく、そして哀れな気持ちになった。

出会い系サイトで見ず知らずの男を自宅に呼んで、体を売る。

男は、どんな女でも、裸が買えれば、それで良い。逆に女も、どんな男でも、金が貰えれば、それで良い。

じゃあ、もうそれで良いじゃないか。興味本意の私には、関係無いし、別の世界に見えた。

こんなこと辞めた方が良い。普通の仕事をした方が良い。

そんな無責任な言葉も、言えなかった。

自宅で売春を繰り返して、リスクとは思わないのか。いつか聞こうと思っていたが、辞めた。

みすずにそのリスクを説明し、救ってあげて何になるのか。もう帰ろう。

「今日貴重な話をしてくれてありがとう。それじゃあ!」

家を出ようとした時、みすずは私の手を引き止めた。

「ねぇ、お金貰って良い?5千円。」

私から5千円を奪い取ると、みすずは黄色い歯を出し、正気の無い笑みを浮かべていた。

私は、一目散に走ってその場を離れた。待ち合わせ場所だったコンビニにも、二度と近付かないと決めた。

私は踏み入れてはいけない境界線に足を踏み入れたのかもしれない。

興味本意で踏み入れた境界線。後悔と鳥肌が止まらなかった。


翌日。みすずは、同じサイトに書き込んでいた。

「今からエッチで会える人居たら、メールください。私の自宅で☆楽しく会えたら嬉しいな!」

みすずの体を求めて、今日も多くの男が群がっている。

男も女もそれで幸せなのだろうか。

部屋に飾っている母親は、今の娘を見たらどう思うのか。

そして、みすずはいつ自宅売春のリスクに気付くのか。いつまでこの生活を続けるのか。

色々な疑問が頭をよぎった。考えても答えは分からなかった。

ひょっとすると、みすずはそんな疑問も一片たりとも抱いていないのかもしれない。

もし、それが答えだとしたら、

俺には関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない俺には関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない俺には関係…。

念仏のように唱えながら、私は意識を閉じた。

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