「ハジキ」

昔、バイク便の仕事をしたことがある。
呼んだらすぐに来てくれて、都心の渋滞をすり抜け、すぐに配達してくれるというものだ。
バイクに積めれば何でも運ぶ。
おおかたはテレビ局の製作部門や広告代理店、大手出版社などの仕事が多い。
なかには芸能人から直接依頼がある場合もあり、素の姿を見ることも多々あった。
その日は夜12 時ころから雨が降り出してきて、もう仕事をあがって家にかえろうかな、と思っていた時。
「ピー、ピー、ピー」胸のポケベルが鳴る。
配車センターから依頼が入った知らせだ。
断ってもよいのだが、この一本の仕事を終えて帰ろうと思った私は、配車センターに電話して(携帯、ポケベル両方装備)顧客からの依頼内容を聞こうとした。
すると配車センターの社員が開口一番、「佐藤さん、ちょっと危なそうな仕事なんで断ってもいいですよ」。
私は、「夜間割り増し加算なんで多少危なくてもやりますよ」と言った。
(どうせ歌舞伎町あたりの裏ビデオでも運ぶ仕事なんだろうとたかをくくっていた)
依頼内容は…東京駅八重洲口新幹線改札の向こう側に立っている、ベージュのベストを着た30代の男性から荷物を受け取り、六本木通り首都高高樹町入口の下に停車してある黒のベンツS600 の後部座席の人に渡す。
というものだった。料金はベンツの人が支払う。
やるといった以上、やるしかない。
八重洲口改札に到着。バイクを止める場所に苦労した。
改札の向こうに見えるのは金正日の長男にそっくりな、ベストを着た男性。
おもむろに近づいていくと手招きをしてきた。
配送伝票を書こうとしたが、何も喋らない。日本語もわからないっぽいので、空欄のまま荷物に張
ることに。
荷物を受け取った瞬間、重っ。
25cm 四方くらいで新聞紙で何十にもぐるぐる巻きにしてある。その上からガムテープで何本か固めてある荷物だ。
重さからいって、中身は金属と思われる。
ふと気づくと、さっきの男性が"早く行け"と手で合図している。
雨の夜、バイクで都心を走るには安全第一が必須だが、状況はそうも言ってられないっぽいな。
度重なるタクシーの攻撃をかわし、予定時間よりも早く高樹町入口へ到着。
バイクを路肩に停め、雨にぬれないように荷物を抱いてベンツのもとへ。
ゆっくりとパワーウインドウが下がり、「ご苦労さん。いくら?」
初老の男性が答える。
3950 円です。
「じゃ、はい4000 円。おつりも伝票も要らないから」
そういい残して、すごいスピードで首都高に乗っていった。
おつりいらないって、50 円じゃねーか…。どんな気持ちでここまで来たと思ってんだよ。
配車センターにねぎらいの言葉をもらい、安全運転で帰路についた。

著者のさとおじさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。