受け継ぐもの



幼い頃に母を亡くした私は父と二人暮しだった。

その為、家事と仕事に追われる父に代わって 

家の電話に出る事は私の仕事の一つだった。 

丁寧な言葉遣いで応対すると、 

決まって父は私を褒めてくれた。 

だから私は電話に出る事が大好きだった。 

誰かから掛かってくる電話が待ち遠しくて 

電話機の前で眠ってしまった事もあるくらいだった。 

しかし、声変わりが始まった頃から

私は自宅の電話に出ることが憂鬱になった。

なぜなら父宛てに掛けて来た殆どの人が、 

私を父と間違え一方的に用件を話し始めるからだ。 

その度に、 


「すいません。今、父に代わります。」


「すいません。今、父は外出しております。」


とまるで何か自分が悪い事をしたように 

相手に申し伝えるのが苦痛だった。 

だから父が家にいる時は全くと言っていいほど 

電話に出ることはなくなったし 

また誰もいなくても出ない事があった。 


社会人になって3年目。

父が急逝した。 

葬儀が済み暫く経つと 

自宅の電話が鳴る事は殆ど無くなった。 

それでも偶に掛かってくる父宛の電話に 


「先日父は亡くなりまして。」

と答えるのがやっぱり苦痛で、それに対して、 


「それは存じ上げなくて申し訳ありませんでした。」 


と謝られるのがもっと苦痛で

使うこともなくなった電話の解約を考え始めた。 

四十九日の法要が終わった頃 

また父宛に一本の電話が掛かってきた。 

本屋からだった。 

父が生前予約していた本が漸く入荷したとの事だった。 

父が亡くなった事を伝え断ろうかと思ったが 

自宅で本を読む姿など一切見せなかった父が 

一体どんな本を注文したのか興味を持った為 

父に代わり私が取りに行く事だけを伝えた。 



本屋から受け取ったのは一冊の陶芸の本だった。

仕事一筋の人間で酒とタバコ以外 

趣味と言えるような物は一つも無いように思えた父。 

そんな父が陶芸に関心を持っていた事をその時初めて知った。

定年退職を迎えるにあたり 

老後の趣味として始めようと考えていたのだろうか。 

葬儀でも殆ど涙することがなかった私だったが 

父が読むはずだった本を1ページ、1ページ捲っていると 

止め処なく涙が零れ落ちた。 


袋を見るともう一冊の本があった。


それは予てから私も欲しかった一冊・・・




12歳アイドルの衝撃Tバック写真集


「はいちゃいました!」


だった。 


 

どこか後ろめたかったロリータ嗜好。 

だけど今は父親譲りと知って私のプライド。

みんなの読んで良かった!

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