受け継ぐもの

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幼い頃に母を亡くした私は父と二人暮しだった。

その為、家事と仕事に追われる父に代わって 

家の電話に出る事は私の仕事の一つだった。 

丁寧な言葉遣いで応対すると、 

決まって父は私を褒めてくれた。 

だから私は電話に出る事が大好きだった。 

誰かから掛かってくる電話が待ち遠しくて 

電話機の前で眠ってしまった事もあるくらいだった。 

しかし、声変わりが始まった頃から

私は自宅の電話に出ることが憂鬱になった。

なぜなら父宛てに掛けて来た殆どの人が、 

私を父と間違え一方的に用件を話し始めるからだ。 

その度に、 


「すいません。今、父に代わります。」


「すいません。今、父は外出しております。」


とまるで何か自分が悪い事をしたように 

相手に申し伝えるのが苦痛だった。 

だから父が家にいる時は全くと言っていいほど 

電話に出ることはなくなったし 

また誰もいなくても出ない事があった。 


社会人になって3年目。

父が急逝した。 

葬儀が済み暫く経つと 

自宅の電話が鳴る事は殆ど無くなった。 

それでも偶に掛かってくる父宛の電話に 


「先日父は亡くなりまして。」

と答えるのがやっぱり苦痛で、それに対して、 


「それは存じ上げなくて申し訳ありませんでした。」 


と謝られるのがもっと苦痛で

使うこともなくなった電話の解約を考え始めた。 

四十九日の法要が終わった頃 

また父宛に一本の電話が掛かってきた。 

みんなの読んで良かった!