61人生の岐路 / 父、家を出る
震える声で母が電話をしてきた前に、妹から電話が来たのだ。
妹「お姉ちゃん、また、何かやったの?今回は覚悟しといた方が良いよ」
妹は父と何度か連絡のやり取りをしていて、私の事情を聞いていたのだ。
父とも母とも、何の関係のない(私からしたら)4つ離れた妹とも電話をしており、家族の情報網となっていた妹はついに私に電話をかけてきた。
妹「お姉ちゃん、お父さんぶちギレだよ。お母さん、震えているから」
私「……ん?なんで?」
妹「……っは?何も知らないの?」
私「何回も電話が来ていたけど、無視していて」
妹「おい、おねえ。包丁で指切ったじゃん。あれが発端だよ」
と、妹を通して事情を聞いた。
私がぐさっと指を切った。血が止まらず、両親に電話をした。
なんで近くに住んでいる彼ではなく、家に電話をしてきたのか。
そもそも、年明け、少しで良かったから会ってほしかった。
……と。父は、正月早々の引っ越しでの事を引きずっていたみたいです。
そんなこと言われても……と思ったけど、口には出せず、妹の話を聞いていました。
妹「一先ず、お父さんに電話して謝った方が良いよ」
私「分かってるけどさ、電話が繋がらなくて。というより、めっちゃ怖い!」
妹「ハッ!!おねえが引き起こした問題なんだから自分で解決しなよ」
私「……う、ん。分かってるけど…」
妹との電話の後、震える手で父に電話をかけた。
プルルルル。父よ、出るな出るな…と祈っている私がいた。
無視されている方がその時は良かった。
祈りが通じたのか、ただ私と話したくないのか、父は電話に出なかった。
ふうとため息をつき、電話を切ると、タイミングよく母から電話があった。
声は、震えていた。私の何十倍も何百倍も震えていた。
事情は分からなかったけど、
泣きながら、
「お父さんが出て行っちゃった。
どこに行ったのかも分からない。
どうしよう。どうしよう」
ようやく、事の重大さを知りました。
2つ下の妹の反応「おねえのせいだからね」
4つ下の妹の反応「そのうち帰ってくるよ」
こんなにも姉妹で違うもんなんですね。なんて言ってられる場合ではないか。
とにかく焦りました。
と言っても静岡に帰る選択肢はなく、ただただ状況を教えてもらうのにいっぱいでした。
父が出て行った理由。
それは、父しか分からないけど、母が言うには、彼と付き合いが長くなるのに、全然、あんたたちからアクションがなく、呆れていた。そんな時に、あんたが包丁で指を切って、就職の時も転職の時も彼を選んだのに、こんな時だけ家を頼るなんて何を考えているのか。そして、父と私の間に立たされた母が私のフォローをしてくれたため、父からしたらお前(母のこと)も敵なのか、みたいな解釈をしてしまい、もう誰も信じられないという事で家を出てしまったらしい。
元々の原因は、すべて私が引き起こしてしまったので、とにかく父が帰ってくる事を祈った。
情報網の妹から情報が流れてきて、
静岡から4つ下の妹が住んでいる広島に向かったものの、終電がすでになく諦めた。その後、2つ下の妹が住んでいる東京に向かったものの、そちらも電車がなく諦めた。
仕方なく、父が大学時代に住んでいた名古屋に向かった。と言う内容だった。
その後、さらに連絡があり、夜中に父は家に帰ってきたみたいだ。
安心した。
母は相当、震えていたみたいだ。
父が帰ってこない事ではなく、これまで経験したことのない父の暴れ具合によって。
妹から貰った姿見は、父の怒りによってバリバリに割れたらしい。
毎日、毎日、毎日、母は気を遣って父と生活をしていたようだ。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
私の話はタブーで、少しでも話題に出すと父は暴れるらしく。
私は大橋家の子供じゃないような日々だったみたいです。
悔しいし、涙があふれるけど、自分が招いた事だから仕方ないです。
でも、今後の事を考えたら、そろそろ謝りに行かなければ…。
ただ、私が行ったところで父の機嫌がまた悪くなって、母に八つ当たりをしてしまったら…。
とにかく怖くてたまらなかった。
でも、母に迷惑をかけていられない。
気持ちを振り絞って、私は静岡の家に向かいました。
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