市バスの中で手を振り上げ、老婦人を殴ろうとした老人を止めた赤ん坊の一声


娘は生後3ヶ月で40度近い熱を出し、夜間救急診療所へ行くと、

大きな病院を紹介され即入院となった。

肺炎だった。自宅から遠く、夫におむつや着替えを持ってきてもらい私も泊り込んだ。

幸い5日で退院でき、あとは通院ですむ事になった。


自宅からバスにのり駅~駅へ、更にバスに乗る通院は片道2時間近くかかる。

普段乗らない市バスにのり、

初めての育児、肺炎にさせてしまった後悔、緊張と体のだるさと娘を抱え座席に座った。

他には誰も乗っていない。娘は機嫌よさそうだ。


シルバーシート向かいの一人用座席に、横抱きの抱っこ紐で娘を抱えるようにしていたから、

赤ちゃんがいるようには見えなかったと思う。


停留所に止まり、一人の老夫が、ステップを音を立てて踏みつけ、シルバーシートに座った。

10~20秒ほど過ぎてから、老婦が胸を押さえ、息苦しそうにステップを登り、老父の隣に座った。

苦しそうな息でも、座った姿勢、ひざ~かかとまでピシッとそろえている様が、育ちのよさと厳しさを感じさせる老婦だった。


バスが発車した。

3分もしなかった。老婦が大きなため息をついて話し始めた。

老婦
どうしてあなたはいつもそうなの!?
老夫
・・・・・・。
老婦
私は病気で!苦しくて!病院に付き添ってといっているのに!
老夫
・・・・・・。
老婦
黄色信号で私だけ渡れなくても、無視して!
一人でさっさとわたり、バスに乗って!
老夫
・・・・・・。
老婦
ステップで手を貸してくれることもない!
そんなんだから!

激しい口調の中、老夫が無言で立ち上がり、手を振り上げた 殴る気だ


ヤバイ!!止めなきゃ! でも娘がいる!

すると娘が


赤ちゃん娘
あっくー

ご機嫌なときに出す喃語(なんご)を話した。

その瞬間、老夫の振り上げた手はぴたりと止まり、ゆっくりとおろされ、

こちらに目を向けることもなく、何事もなかったように座席に戻った。


娘を見ると、バスのゆれと日差し、抱っこされているのが嬉しくて笑っていた。

私はそーっと、老夫婦に目を向けると

老夫は何事もなかったようにそっぽを向いたまま、だらしなく足を広げすわり、

老婦は私を見て静かに微笑んだ。


老婦
こんな人でも、赤ちゃんを前に己を正す心をもっているのよ。

そんな声が聞こえたような気がして、傍からは解らない愛情があるのだと感じた。



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