貴裕はどうやって拓人になったか

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何をしても無反応。


それでもとにかく約束の日に彼の地元まで行った。




行く当てもなくふらふらしていると着信が。


そのコから。


前の夜にオレと電話やメールをしていたことが親にばれ、ケータイを取り上げられたということだった。




「今来てるけど会える?」


「うん」




待つこと数十分、ようやく初対面。


ちょっぴりおどおどしていて、実際の背よりも小さく見えた。




そのままオレの地元まで U ターンして、師匠の家で場所を借りて初めてのコトを済ませた。


帰りは新幹線の切符を買ってあげた。


何かあった時の為にと、何故か実家の住所とPHSの番号を紙に書いて渡し、たまたま持っていた小さな証明写真も渡した。


そうやって彼との9か月が始まった。




免許を取るまでは無理な会い方をして色々迷惑をかけた。


けど、晴れて免許を取ってからは毎週のように車で会いに行った。


夜も寝るまでメールをした。


『寂しい夜は同じ空に浮かぶ月を見よう』と、歯が浮くような約束もした。


"I Will Come to You"という歌がぴったりだった。


初めて人の為に涙を流した。


それだけ一生懸命な恋愛をしていた。


そのつもりだった。




でも、新しく始まった生活を楽しみたい彼と、少しでも傍に居て欲しかったオレとの間には温度差が生まれていった。


理由はそれだけでは無いけれども、会う時間は少なくなっていった。


そしてそんな時に親身になって相談に乗ってくれたのが ママ だった。




一番最初に知り合ったオネェさんがママだ。


チャットで仲良くなりメッセンジャーでも話をするようになって、ケータイのアドレスも交換した。


色んなことを経験した人だった。


その分たくさん教えてもらった。


励まされもした。


怒られたりもした。


オレはママの息子の一人で、そう呼ばれるのはすごく嬉しかった。


でもオレはママが助けを欲している時に何もできなかった。


しようとしなかった。


『元気?大丈夫?』という一言のメールすら送れなかった。


たくさんお世話になっていたのに、オレはその一歩を踏み出さなかった。


そしてママとは離れ離れになった。


最後に連絡を取った時、ママは地元に帰る途中だった。


あれからどうしているのだろう。




その少し前、一人暮らしをしようと計画していた。


アルバイトを掛け持ちして金を貯め、不動産屋を回って物件を探した。


そして決めたのが、あそこ、木皿ハイツ。




彼氏を呼びたかった。


泊まりに来てもらいたかった。


そう話した。


会いに来れないのが分かっていながら話をして、そして喧嘩をした。




無理なのは分かっていた。


けど、身体を交えることの悦びを知った時に始めた一人暮らし。


本当はあのコが良い。


その思いとは裏腹に勝手に反応する身体。



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