パプアの森の勇者デメギョ2

「フェリーに間に合わんごてなるけん、そろそろ帰ろうか。」と言うと米は。

「そがんね、帰ろうか。」と、同意するが、名残惜しそうに辺りを見回している、オシャレなお姉さん、禿げデブのサラリーマン、雑多な人々が歩いている、きらびやかなポップ、看板、パチンコ屋の音、流行の音楽、こんなやかましい都会の雰囲気が、今の僕を刺激する、田舎のキョーレツな匂いを、まだ懐かしいとは思わない。帰りは、辛島町電停からチンチン電車に乗って熊本駅まで、誤解の無いように説明するけど、チンチン音を鳴らして走る路面電車、男性専用の電車じゃない。

駅に着くと「切符ば買わんば。」と、米が言う、僕はまだ、ホームには入りたく無かった、この大都会熊本に足跡を残していない、「チョット待っちょって。」辺りを見回した、沢山の人でごった返している、パプアの青年のように、自分の度胸を試したかった、男になりたかった。

いつもだったら、同世代の女の子にターゲットを絞り込むけど、難易度の高い女の子にチャレンジしたかった、ターゲットロックオン、推定年齢24~26歳、髪型はソバージュで片方だけジェルで固めて後ろに流していた、服は上がヒョウ柄のブラウス、下が黒のスパッツ、靴はヒールの無いメタリック系、いかにもヤンキー姉ちゃん、化粧は濃い目で近寄り難い、だけどスタイル顔は素晴らしく整っている、こわもてのヤンキー兄ちゃんと待ち合わせかも、米の部屋で見たバンジージャンプの光景が脳裏をよぎる、10メートルのジャンプ台に登るような気分だ、怖れることはない、殺されることはないだろう、ヤンキー兄ちゃんが出てこないことを祈りつつ、身体中の勇気を集めて、行くしかない、俺は男、俺は男、何回もつぶやきながら飛び降りた。

「こんにちは。」と、声を掛けた、予想に反してニッコリ笑って。

「あんた、かわいかね。」

それから先は何を話したか覚えていない、結局電話番号だけはゲットして急いで米のもとへ走る。

「な~んしよったと。」と、米は怒っている様だ。

「な~んもしちょらん。」と僕はナンパのことは話さなかった。

よく考えてみると、ナンパしたのかされたのか、よう、分からん、でも難攻不落に見えた姉ちゃんを落としたのはたしかだ、ポケットに入っているメモ紙が証明している。

島原に帰ればもう会うことはない、達成感を噛み締めた、大人の女性に大人の男として扱ってもらった様な気がした、僕は普通の高校生、少し勇気のある男、デメギョだ。

帰りのことはどうでもいい、大事なのは次の日だ。

春休み最後の日、父ちゃん母ちゃんは仕事に出かけ、二階の部屋でゴロゴロしていた。

そうそう、兄ちゃんは、東京の大学に行っていて家にはいない、一階から電話のベルが聞こえてきた、真っ黒のうるさい奴だ、なかなか切れないから、階段を降り電話に出ると、

「あんた、今、何してると。」と、昨日のヤンキー姉ちゃんだ。

「うん、家でゴロゴロしちょった。」父ちゃんか、母ちゃんが出たらどうするつもりだったのか。

「今、あんたの所(島原)に向かってるのよ、もうフェリーの中よ。」と姉ちゃん。

エエ~ッ、なして、なして。


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