パプアの森の勇者デメギョ 千恵子の章4
「田浦さん、昼から早帰りしなさい。」部長が、勤務表を持って私の所まで歩いてきた。
「あなたは、頑張り屋さんだから全然年休取ってないじゃない。」
実は、明日と明後日2連休を取っていた、いや、取らされていた、新年度になる前に、どうやらキレイにしてしまいたいらしい。
高校を卒業してからすぐ、このデパートに入社してはや6年、ずっとこの化粧品売り場の美容部員として働いている、今じぁ、主任になって一つのチームを任されている、もっと若い頃はやんちゃやって、レディースのヘッドをやっていたから、責任感は強い方だと思う。
「はい、分かりました。」別に休みがあってもやる事無いんだけど。
「千恵子、彼氏と旅行でも行くの。」と、同僚の妙子が、私の肩に手をかけて言う、嫌味な奴、
「そんなんじゃないよ。」と答えた、妙子が立ち去った後には、4月からの新製品「チェリーブロッサム」の香りが残されていた、試供品をお客様に配ろうと倉庫の奥に隠していたんだけど、クソ〜、やりやがったな、ボコボコにしてやるぞコノヤロー、ヘッド時代の自分もまだ存在している。
ロッカールームで着替えを済ませ表に出る、目の前はサンロード新市街、大きな横断歩道、白のボーダーの上をたくさんの人たちが歩いて行く。
街でもブラブラしようかと、一歩踏み出した途端、後ろから。
「千恵子姉さ〜〜ん。」振り向くと、レディースの頃から可愛いがっていた、チエだった。
「今日は、休みですか〜。」
「そうだよ。」と言うと、嬉しそうに。
「デートしましょうよ。」
男には声かけられないけど、昔っから年下の女の子には、よくモテた。
「ピエトロって、美味しいスパゲッティ屋さんがあるんですけどぉ〜、先ずはそこにいきましよ、ひょっとして、もう、昼ご飯食べましたぁ〜。」
チョット、とろい娘だけど、こういう時は、グイグイ来る、どっちみち暇だしいいか。
「うん、いいよ、同棲生活の話でも聞いちゃおうかな。」こないだ、別の友達から、チエは、そろそろ結婚するらしいと、聞いていた。
「ヤダ〜、姉さん、話すことなんて何もありませんよぉ〜。」と、照れてドンドン横断歩道を、渡っていく。
「もう、置いていきますよ〜。」振り向いて、オーバーな仕草で手招きしている。
店に着くと、チエと同じ物を頼んだ、一時間もするとチエのおのろけ話と、スパゲッティで、お腹いっぱいになった。
「じゃあ、結婚式には呼んでね。」と言って立ち上がると。
「一度拓っくんに、会って欲しいんです。」と、いつに無く真剣な表情で、チエが引き止める。
「じつは、お腹に赤ちゃんがいるんです、なので拓っくんは、結婚しようって言うんです、拓っくんの本当の気持ちを知りたいんです、姉さんだったら、拓っくんも一目置いているし、正直なところを話してくれると思うし…、実はこの後拓っくんと、駅で待ち合わせしているんです、一緒に来てもらえませんか。」
「もう、プロポーズされたんでしょ、だったら素直に受けちゃえばいいじゃない、考え過ぎだよ、私なんか、もう24になるけど一度もプロポーズされたこと無いし、男から声かけられた事さえ無いのよ。」
チエはまだ真剣な表情をくずさずに。
「姉さんには、隆くんのことがあったから、みんな声掛けにくいんですよ、
姉さんに憧れている男の子は、たくさんいますよ、それに姉さんいつも、声掛けるなオーラが漂っているし。」
21まて付き合っていた隆は、バイクの事故で死んでしまった。
それから誰とも付き合っていない、チエはニッコリ笑って。
「今度姉さんに彼氏出来たら、ダブルデートしましょう、いつでも紹介しますよ、いっぱいいるんだから、田浦千恵子ファンが。」
いっぱいいるんだったら、一人ぐらい声かけてくれていいのに、隆のことだって3年前のこと、お言葉に甘えちゃおうかな。
「そんな事はどうでもいいけど、まずは、チエのことだよね、久しぶりに拓也のバカに会いに行こうか。」と言うと、チエはホッペを膨らませ。
「バカはよけいです。」と、怒ってる。
二人で笑いながら、会計を済ませ通りにでる、辛島町電停まで歩いて、路面電車で熊本駅に向かった。
時間になっても、拓也は来ない、チエが辺りを見回している。
「チョット電話してきます、少しここで待っててください。」近くの電話ボックスにはしる。
あいつ、来たらシメてやる、あっ、ダメダメ、こんなんじゃ誰も声かけて来ないのは当たり前だ。
「こんにちは。」目の前には、ボロ雑巾みたいなジーンズに白いシャツ、手にはベイブルックの袋を抱えた少年が立っていた、目が大きくて笑顔が可愛いかった。
「あんた、可愛いかね。」と言うと、少年はビックリして、目をグリグリさせ。
「電話番号教えてください。」えっ、いきなりなに〜、ナンパなの〜、いつもの私ならにらみつけて終わりだけど、少年の(少年と言っても、高校生みたいだけど。)一生懸命さに惹かれ、田浦千恵子○○○-○○○、メモ帳に書いて渡した。
「あんたの名前と電話番号を教えて。」必要以上に大きな声で、
「大久保 陽 ○○○-○○○。」私はメモした。
「なんで、私に声かけたと。」と尋ねると、少年は、
「一番きれかったけん。」と言って笑ってた。
「もう、島原に帰らんばけん、電話すっけん。」駅舎の方へ、消えて行った。
私、なにやってんだろう、簡単に電話番号教えちゃって。
「姉さん、何ニヤニヤしてるんですか〜。」隣りにチエが帰って来てた。
「なんか若い子に渡してませんでした〜。」シマッタ、見られてた。
「うん、ナンパされた。」
「エェ〜、姉さんがナンパされた〜、何渡したんですか〜。」もう〜、詳しく聞くなよ。
「電話番号。」チエは興味津々のようだ。
「千恵子姉さんが、若い子にナンパされたんですか。」
拓也のバカが、遅れて来た割には、ズカズカ他人のプライベートに入ってくる。
「しかし最近の若い子は、勇気ありますよね〜、姉さんをナンパするなんて、俺の仲間内でも、憧れている奴はいっぱい居ますが、そんな度胸のある奴は一人もいませんよ。」と、遅れてすみませんの、一言も無く拓也は言った。
「あんたねぇ、今からじっくり聞かせてもらうからねぇ、うちのチエを嫁にもらう男の覚悟をねぇ。」
「チエを一生大事にするつもりです、今からゆっくり話ますから、穏やかにお願いします。」と言い、頭を下げた。
「明日ダブルデートしましょうよ。」とろいが、押しの強いチエがいいだした。
「姉さんの彼氏、何処の子なんてすかぁ〜。」困った、チエがグイグイきだすと、結局その通りになるパターンだ。
「いいね、俺のジャパンも直ったばっかだし、試運転がてら、ドライブデートしましょうか。」と、拓也も乗ってくる、なんだこのバカップル、お前ら二人の結婚の話じゃなかったのかぁ。
結局二人に押しきられ、明日の島原行きが決定した。
私も少し会いたくなった、あの目の大きい少年に。
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