【ファイナル】セットアップにかかった日本人の救出作戦
「わかった、それならどちらが正しいか裁判で決着を付けよう」
すでに朝の気配が感じられるところ、完全に交渉はこう着状態になりました。やはり、供述書にサインをしてしまったゲンさんを本日中に救い出すことは不可能だとあきらめかけていました。
明日、弁護士を連れて出直そう・・・裁判になれば長い間時間がかかるのは必至です。
今日中の解決をあきらめかけた時、さっきまで部屋の隅で腕組みをしていたホテルのガードマンがおもむろに口を開きました。
「もういい加減にしたらどうだ?」
運転手を見た警察官は一応に驚いた表情をしていました。そこにはNBI(国家警察)のIDを見せながら立っているエルソンの姿がありました。
「NBI?(国家警察)」
「ホテルの近くで旅行者に詐欺を繰り返している悪徳警官がいるとコンプレインが入ってね、NBIが内部調査に踏み出したところだ」
「今回は示談が済んでいるのでこれで終わりだ。これ以上話をこじらせるならNBIが徹底的に悪だくみを追及するけどどうする?」
まさか、NBI(国家警察)のおとり捜査に協力するとは思いませんでした。以前よりホテルの周りでこのような事件が多発しており、ホテルとしてもNBIと協力をしながら対処策を考えていたそうです。
同じような事件があったときのためにホテルの専属ドライバーと称し、NBI署員が事件に備えてホテルで待機していたそうです。
「わかりました。今回は示談も済んでいる事ですので、とりあえず日本人を釈放します。」
「釈放だけでは済まない。この事件はそもそも何も無かったで処理すること」
「わかりました。一切コンプレインは出しません・・・」
ゲンさんを連れて警察署を出るころにはすっかり夜が明けていました。
「おとり捜査にご協力を頂きましてありがとうございます」
「いえ、でも、無事にゲンさんを連れて帰れてよかったです」
「それにしてもサインした供述書がねつ造なんて宣言して、私も驚きました」
「一か八かの大勝負です。向こうも負い目があれば交渉に乗ってくれると思っていました」
「しかし30万円の示談金は高すぎませんでしたか?分け前であの両親と警察官とでもめなきゃいいですね」
「えっ?30万円と言いましたか?私はそれほど大きなお金は持ち合わせていません。あれ、一万円札が3枚入っていただけですけど?」
「はっ?それって外国人がフィリピンの両替所でよく合う詐欺じゃないですか?」
「はい、私も一度だけよく確かめずにお金を受け取って痛い目に合っていますから・・・」
「もらったお金はよく確かめないと・・ですね」
一日に色々な事があり過ぎたゲンさんは一言もしゃべらず、ぼーっと日が昇るマニラの風景を目で追っていました。また、この事件をきっかけにエルソンとは親交を深め、後に私が唯一フィリピン人の友人と呼べる中になりました。
「ゲンさん、仮眠する時間はありませんね。シャワーを浴びて朝食に行きましょう。今夜の事は何も無かった。二人だけの秘密にしましょう」
一日目のきついお灸に懲りたかどうか?その後の視察旅行はつつがなく無事終了致しました。現場長の粋な計らいで帰国後から弊社のマグロの取扱高は一気に増えました。
それから数か月後、マニラの空港ターミナルで荷物が出てくるの待っていたときどこかで見た事のあるフェルトのナップサックを背負っている男性を見かけました。
「あれ?ゲンさんじゃないですか?どうしたんですか?旅行ですか?」
「いや~っ、俺もやっと春が来てよ~。今度結婚することになったんだ」
「結婚って?相手はフィリピン人ですか?」
「うん、まだ、25歳なんだけども、俺が行くと家族が大勢で俺の事を歓迎してくれるんよ」
「それはゲンさんがお金持ちだと思われてるんでしょ?もしかしてお母さんが病気でお金が要るとか言われていませんか?」
「あれ?なんで分ってんの?どうやら彼女のお母さんが難病らしくてさ、入院に沢山お金が要るみたい、彼女のお母さんを思う涙は本物だよ」
勿論、真剣に日本人と付き合っている素晴らしいフィリピン女性もいらっしゃることは確かですが、子供の頃から親にこんこんと「将来日本人と結婚してたくさんのお金を家に入れて私たちに楽をさせておくれ」と、洗脳されているフィリピン女性も多い事も事実です。
まぁ、何に付けても懲りない人だな、と笑いながらマニラ空港でゲンさんと分かれました。空港にはゲンさんの婚約者とその家族親戚が大勢迎えに来ていました。彼らにはゲンさんのフェルトのナップサックから沢山のねぎが出ているように見えるのでしょうね。
終わり。
あなたの親御さんの人生を雑誌にしませんか?
著者の渡辺 忍さんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます