第四十章 Bくんのこと

第四十章

「Bくんのこと

 私の大学時代の友人にBくんというのがいた。医学部だから頭は良かったが、

「医者はええなぁ。女のパンツの中が見放題やもんなぁ」

 と公言する変態だった。彼は早熟で、大学時代に親に内緒で同棲していた。大人だった。詳しくは知らないが、相手は看護婦さんらしかった。彼は、私の目には遊び人だった。

ところが、ある時からその女性が彼の周囲から見えなくなった。話を聞くと別れたという。彼女が二股をかけていたそうだ。もう二度と女は要らない。これで清々した。勉強に専念できると言っていた。

私も似たような経験をしていたので、話が合ったのだ。私が自分の経験談を同級生の女子に話すと

 

「別の男を気にするなんて、高木くんちっちゃい」

 と言う。とても、ついていけない。

「ボクは女性とうまくやっていけないのではないか」

 と思った。

 それから7年後に結婚した。自分としては頑張ったつもりだったが、結局バツイチになった。悪い予感が的中してしまった。結婚してから14年目のことだった。

 小さかった子供たちに可愛そうなことをしてしまった。両親にも心配をかけてしまった。本当は平凡でも幸福で安定した家庭を築きたかった。仕事にかまけて家庭を放り出したと思われたらしい。無念だった。

 しかし、私の才能も、時間も、体力も限界があって、どうしようもなかった。無力感を嘆くヒマもなかった。でも、心のどこかで

「これで自由になれる」

 と思っていた。前にも敵、後ろにも敵では身体も心ももたない。

 Bくんは、今はある国立大学の大学病院で医者をしている。彼は、別れた彼女に未練があったが捨てた。賢いヤツだったから、女と医者の勉強の両立は無理だと悟ったらしかった。

 彼は、

「犠牲が多いほど真剣にやれるんや!」

 と言っていた。私もそう思う。やりたいクラブをやり、やりたいデートを楽しみ、育児も仕事も何でもこなす。どれ一つも諦めない。そんなスーパーマンはいない。私はフランス語の勉強をしているが、死ぬまでに英語とフランス語で精一杯。世界にいくつの言葉があるのだろう?

 捨てたものに思いが残っているからこそ、

「時間を無駄にできない」

 という打ち込む気持ちが真剣になるように思う。Bくんは医学部の授業料を捻出するために親が田んぼを売ったことを知ってしまった。

「おれ、いったい何やっとんのや!」

 と目覚めたらしい。そういう犠牲の上に自分の生活が成り立っている。その自覚が彼の背中を押した。Bくんの彼女は悪くない。 Bくんも悪くない。誰も悪くない。それでも、うまくいかないことの方が多い。それが人生というものだろう。

 

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