砂の中のキリン

3 / 4 ページ

 すると、頭の中にぼんやりと何かが見えた。

 これは……。

 キリン?


 とその時──。

 指先が、何かをつかんだ。

かたい、棒のようなもの。

先がまるい? もう1つある。

そしてその下には……。


 胸が高鳴る。息がとまる。

 ふるえる手で、まわりの砂をざくざくけずって

2本の棒の下をかきわけると、

砂がすべり落ちて……。


 大きな目が、あたしを見ていた。

 何て澄んだ瞳だろう。

 キリンはしばらくあたしを見て

その目を閉じると、ぶるるっと首をふった。

顔にのこっていた砂が落ち、

長い首が少しあらわれた。



 これは、夢?

 ううん、だってそこにいる。

「……った」

 かわいた口から言葉がこぼれる。

「やった」


 そしてキリンの口もとが、

ゆっくりと動いた。

「ちょっと、どいてて」

 やわらかな声。


 キリンてしゃべれるの?


 そんなことを思いながら

砂山からおりると、

キリンは首をぶるんとふって砂をはらった。

まるで水の中から出てくるように、

キリンは砂山の中からすうっと出てきた。


 草の上に立ったキリンは、あたしより

大きいけれど首が痛くなるほど

見上げなくても平気だ。

きっと子供のキリンだ。


「やっと、ぼくを出してくれたね。

ずっと、待ってたんだ」

「あたしが、掘るのを?」


「そう」

「でも、ちっちゃい頃掘った時は、

いなかったよ」

「本気では思ってなかった。

ぼくのこと」


 ああ。それはそうだ。

魔法の砂山って思っていたけれど、

おりがみとかビー玉が出てくるだけで

満足していた。


今だって、信じていたわけじゃない。

でも初めて本気の本気で求めた。

キリンのことを。


 黄色い毛の上で、春の日ざしが

金色にかがやいている。

 あたしは、指を伸ばして

そっとキリンにふれた。


 あたたかい。しびれた指先に、

ぬくもりがゆっくりともどってくる。

なんだかわからないけれど、

涙がこぼれた。


 ぽっぺたを、キリンの首にくっつけてみる。

キリンのにおい。

干し草のような、少しすっぱい動物のにおい。


「ほんとに、いたんだね」

 母さんが見たら、なんて言うだろう。

世の中のこと、何でもわかってるって

思っている、大人たち。


「ほんとに、魔法の砂山だったんだね」

 あたしがつぶやくと、キリンが言った。


「魔法を使ったのは、砂山じゃないよ」

「えっ? どういうこと?」

あたしは、キリンをまじまじと見上げた。


「奈々葉がちっちゃい頃も、ぼくは

おぼろげだけどここにいたんだ。

奈々葉の思いが小さかったから、

こうして出てこられなかったけれどね」


 それって──。




 あたしが黙っていると、キリンが

思い出したように言った。


「たかしは1度、ぼくの角をつかんだんだよ」

「えっ? お兄ちゃんが?」

「そう。あの時たかしは、砂山に

奈々葉たちへの手紙を入れてたんだ」


 あ、あれ、やっぱりお兄ちゃんだったんだ。


「たかしもはじめは、いたずらでビー玉を

入れてたんだ。だけど、奈々葉たちが

あんまり喜ぶもんだから、

もっと喜ばせたくなったんだね」


「で、今みたいに出てきたの?」


 キリンは長い首をふった。

著者の山崎 理恵みりえさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。