砂の中のキリン

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「奈々葉たちを喜ばせようと思って

無心に掘ってる時は、

ぼくの角を確かにつかんだのに、

棒だって思ったから、棒になっちゃった」


「キリンだって思ってたら、出てこられたの?」

「まあね。

でもたかしは、ぼくが出てくることなんて、

望んでなかったからね」


「望んだことは、ほんとになるの?」

「そりゃそうさ。本気ならね」


 本気なら……。あたしの人生に、

いろんなものが生まれるんだろうか。



「たとえば」

 キリンが言った。

「奈々葉たちは、空に歩いて行けない

って思ってるだろう?」

「うん、そりゃまあ」

「でも、そんなことはないんだ」


 キリンはじっと空を見上げると、

すうっと息を吸った。


 ぬれるようなつぶらな瞳に、青い空が映った。

深い湖のなかで、何かがゆれた。

キリンは長い首をぶるっとふるわせると、

1歩ふみだす。


地面につく前に空間でぴたりととまる。

もう1足。もう1足。


 キリンは階段を登っている!

 

 早足になったと思ったとたん、

キリンは風のように空への見えない階段を

かけあがっていった。



「あ……」

 もう、真っ白な空の向こう。


 遠くから、声が降ってくる。

「ほらね。ちょうどいいから、

このまま雲に乗って旅に出るよ。

奈々葉も、一緒に来る?」


 あたし? あたしも、空に登っていけるの?


 本気なら。


 キリンの声が、胸の中でこだまする。

見えない階段が、空のかなたまで春の風に

きらめく。

 キリンと一緒に雲の旅、か。悪くないかも。


 見えない階段に足をかけようとした時、

あたたかな風がぶわっと吹いた。

砂がまいあがる。


 ピーっと鳥が鳴いた。

真っ青な空の下、どこまでも続く畑と建物。

足もとには、青や黄や白の小さな花々。

あたしの土地。

あたしの世界。

そう、ここはあたしが生きている場所。


 とっさに手でラッパを作ると、空にむかって

さけんだ。


「やっぱり、またにするう!」

 かすかに、空から返事が返ってきた。

「うん。じゃ、またね……」


 だって、キリンはいつだっているんだ。

今日のあたしが会えたように、昨日のあたしも

キリンに会えたし、明日のあたしだって

キリンに会える。


 あたしたちが気づかなくっても、キリンは

いつだってそこにいる。

 あたしの高校生活。あたしの人生。


 あたしが掘り続ける大きな砂山の中には、

見えなくってもキリンがいっぱいいるんだ。

 ううん、キリンだけじゃない。

あたしは砂山からなんでも取りだすことができる。


魔法を使えるのは砂山じゃない。

あたしなんだ。

あたしが自分で生みだすことができるんだ。


 空を見上げると、かすみ草みたいな淡い雲が、

ゆったりと流れ始めていた。

「またねえ!」




 あたしはお兄ちゃんが作ったへんてこなロックを

口ずさみながら、野の花で彩られた小道を

ゆっくりと歩きだした。



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