絶対に破れない約束

僕には、絶対に破れない約束があります。
約束の内容は、あまり具体的ではなく、明確なゴールが合わるわけでもないので、他の人からはあまりわからないのですが、自分にとってはめちゃくちゃ大事なことなのです。
では、その約束は何かについて書く前に少し前提となるお話を書いておきます。
今から9年前のことです。僕は自分の人生がどうにかなってしまうのではないかと思って、毎日を過ごしていました。
その3年前に京都の美大を卒業して、東京の美術大学の大学院に合格したものの辞退しました。そして、2年間を制作活動と称してふらふらした後、1年間の期限付きで高校の教師を経験した後、ちょっとした不動産屋のアルバイトをクビになるという、ちょっとどうしようもない状況でした。
作家として生きていけるようになりたいという思いや理想と現実の間でよくわからない感じになっていたという記憶もあります。
今、当時の自分を振り返ると、働かなければいけないということは分かっているが、それがどういうことかあまりわかっていなかったように思います。
結局、いくつかの会社の面接を受けるのですが、就職活動の経験もない美大生(デザイン科ではない)の話をまともに聞いてくれる採用担当はおらず、面接のたびに自信を無くしていく日々を送ります。
そんな最中、東京での生活を諦めて実家に帰ろうかと思いつつ、就職サイトを見ていた時に偶然目に留まったのが、今の会社の求人情報でした。よくわからないのですが、その求人広告にひかれるものがあり応募しました。
その応募から1日もたたず面接の案内が来たので当時のオフィスのある渋谷に向かいました。
その時の面接は、これまでと全く違い。僕の些細な話もしっかりと聞いてくれるという感じがしたことを、今も憶えています。特別優しいわけでもないのですが、人としてしっかりと接してくれたという記憶があります。
で、その時に会った面接官が、僕にとって最初で最後の会社の先輩とよべる人で、かつ、この絶対破れない約束をした相手なのです。
その後、業務委託としてアルバイトのような働き方をすることになるのですが、働く気はあるものの働き方や社会人としての最低限のルールもわからないので、この先輩に迷惑をかけ続ける半年を送ります。
結局、一人で仕事ができるようになるまで我慢して育ててくれた後、その先輩は他の部門に行くことになり、僕はその後を継ぐ形で正社員採用をされることになりました。
そこから約1年、正社員としての働き方を新しい上司に詰め込まれるのですが、全く意味が分からず、その新しい上司とぶつかりながらなんとか仕事をしていくということになります。その間、先輩は先輩で全く新しい知識やスキルが必要となる業務を担当しており、毎日が終電を超えるような日々の中、ことあるごとに気にかけてくれ、時には、新しい上司の間に入ってくれるようなこともありました。
(もちろん、僕が怒られることも多々あったのですが・・・)
そうこうしているうちに、僕自身も仕事に慣れてきて、今の仕事では成長の頭打ちのような状況に陥ります。少し前後し、先輩も大きなプロジェクトが修了し、新しい仕事を任されていました。
それが、今から7年前の2006年の夏ごろでした。
そのとき、僕たちの会社は急成長カーブを描きだし、僕の入社時の25名から4倍近くの100名に近づく勢いで規模を拡大していました。
そして、僕とその先輩がまた一緒に仕事をすることになるきっかけとなった新卒採用プロジェクトが動きます。
この時、僕は人事という仕事を始めることになるのです。
それがどういうことかもわかっておらず、ただ、先輩とまた仕事ができることだけがやりがいとなっていたのです。
そして2006年の11月から会社としても初めての新卒採用プロジェクトが走り出しました。実は、僕も先輩も就職活動をしたことがなく、内をやっていいかわからないまま、試行錯誤でこの採用業務に取り組んでいきました。
このプロジェクと開始から5ヶ月程度、僕たちはほぼ毎日日付が変わってから帰るという毎日を過ごし、二人とも飲めないお酒を飲みながら学生と話をするという楽しくもつらい毎日を過ごしました。
最後のほうは、あまりにも一緒に仕事をする時間が長いので相手の考えが、話さなくてもわかるようになるという程でした。
結局、新卒採用自体は初年度にもかかわらず優秀なメンバーを採用できたのですが目標から3名ショートし、僕たちの評価は未達成という評価になりました。
そして、飲めない二人は夜中にコーラで乾杯するしかなかったのです。
そんな思い出がありながら会社の成長はさらに加速し2008年位は200名に届きそうなサイズになっていました。
ちょうど、僕たちが新卒採用をはじめたメンバーが入社するという年度に差し掛かった時に、先輩が僕たちの部署の部長になりました。
当時、人事としての知識や経験もない中、いろいろな問題や課題に巻き込まれては「この会社をいい会社にしよう」と二人で話をしていました。いい会社がどんな感じかは全然明確ではなかったのですが、お互いのいい会社のイメージはなんとなく似ていたように思います。
そんなこともあり、先輩が部長になることで、より良い会社にしていけるという予感を僕は強く持っていました。
その2008年の4月、僕の予感を裏切るように先輩が体調に異常をきたします。初めはこれまでの無理がたたった程度で思っていたのですが、ある日を境に会社に来れなくなりました。
その後、先輩が癌だということを知らされることになります。
正直、何が起きているかわからないようになりましたが、僕は彼が絶対に帰ってくると思っていました。ただ、当然よくないストーリーが常に頭の片隅に残っていました。
結局、先輩はその年の7月に他界してしまうことになります。
先輩が、会社に来れなくなった日に、僕は電話をしたのですが、その時の会話が最後のやり取りでした。そして、その時に“なにを”とは言わなかったのですが「後は任せた」と一言だけ言われたのです。
僕の絶対に破れない約束は、その先輩から伝言された「後は任せた」なのです。彼と一緒には果たせなかった「この会社をいい会社にする」ということが僕が任されたことであり、守らないといけない約束なのです。

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