君の哀しみが癒せたなら...1

2 / 2 ページ

2杯目のカルピスを途中まで飲んだとき、奈津は突然怖くなった。


「元気でね」母の声が蘇る。


外はまだ明るかったけれどおひさまはもう真上にはなかった。

「プール、休んじゃおうかな」

時計を見るとまだ1時にもなっていない。

プールに行くのはやめようと思った。


夕暮れの時間まで奈津はたたみの上でねそべったり、TVを観たり、

絵を描いたり、母のたんすや引き出しを開けてみたりして

過ごすことにした。たんすの中は母の普段着はそのままあったが

お気に入りの赤い麻のワンピースは持って出かけたようだった。

大切にしていたネックレスや指輪、それから化粧品、香水の

入っていた引き出しは空っぽだった。


二階へあがって屋根の上にのぼり、ふとんを部屋にいれた。

ふとんはおひさまの匂いがして気持ちがいい。


母は寝る前に奈津にふとんをかけながら身体に沿ってふとんを

ぽんぽんとはたき、「おやすみ。」と言って頭を撫でてくれた。

「今日はぽんぽんしてくれないのかな?」ぼんやりと奈津は思う。


空腹を感じた奈津はキッチンの冷蔵庫にゼリーが冷やしてあった

ことを思い出した。奈津が母にせがんで作ってもらったものだ。

ゼリーは小さなプリン型に6つ作ってある。

奈津は食器棚から白いお皿を一枚出してきて

その上にゼリーをひっくり返した。


ゼリーの色は淡い水色でソーダ味だ。

「プールみたい。。」

ゼリーを見るとなぜか奈津はいつもそう感じる。

そして思った。




母は 帰ってこない。




ようやく奈津は事の重大さを理解した。





「ほら。」という祐介の声に我に返った奈津は

昔の思い出から現実に引き戻された。

目の前にはプラスチッックのカップに入ったゼリーが

差し出されている。

「食べなよ。」祐介が明るく言う。

「うん。」とうなづいて奈津は身体を起こすと、

渡されたおもちゃみたいなスプーンでゼリーをひとすくいした。

まるで夢の続きのようだと奈津は思う。

ふるふると揺れる水色のゼリーと一緒に

奈津のこころもふるふると震えてる。

でもそれは誰もしらないことだった。


「元気でね」

遠い夏。遠い声。。。。

今も母の言葉が心の中でこだましている。


奈津は母への返事をできないまま、黙ってゼリーを口に運んだ。

奈津の想いは水色のちいさな塊となって口の中であっというまに溶けていった。


こんなお話も書いています。実体験が元になっています。書きたいことがあるうちはどんどん出していきたいと思います。よろしくお願いします。


ストーリーをお読みいただき、ありがとうございます。ご覧いただいているサイト「STORYS.JP」は、誰もが自分らしいストーリーを歩めるきっかけ作りを目指しています。もし今のあなたが人生でうまくいかないことがあれば、STORYS.JP編集部に相談してみませんか? 次のバナーから人生相談を無料でお申し込みいただけます。

著者の宮崎 裕子さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。